第6話 初めての発表会

ある日、ポエムの会の部室にいつも通り集まった千草たちは、部長の健太から突然の提案を聞かされることになった。


「実は、来月に学校で文化祭があるんだけど、僕たちポエムの会も何か発表しようと思うんだ。みんなで詩の発表会をやらないか?」


健太の提案に、部員たちはざわめいた。普段は自分たちだけで詩を書き、それを発表するのが活動の中心だったが、外部の人たちに詩を見せる機会は今までなかった。千草も少し驚いた表情を浮かべたが、同時に興味も湧いてきた。


「文化祭で、詩を発表するってことですか?」

千草が確認すると、健太は頷いた。


「そうだよ。学校中の生徒や保護者、地域の人たちが来るから、普段の活動をもっと広めるいい機会になると思ってね。みんなの作品を展示したり、朗読会を開いたりできるかなって考えてるんだ」


朗読会――千草にとって、それは自分の詩を大勢の前で読むという大きな挑戦になる。今までは部員同士での発表だけで済んでいたが、他の生徒や外部の人たちに自分の詩を見せるのは、かなりの勇気がいる。


「発表会かぁ…」

千草は少し不安そうに呟いたが、麗美がすかさず声をかけてきた。


「千草ちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。みんな緊張するけど、それもまた楽しいんだから!私たちも一緒に発表するし、失敗しても笑い合えばいいの」


麗美の明るい言葉に、千草は少しだけ気持ちが軽くなった。彼女はいつも前向きで、千草に自信を与えてくれる存在だった。


「私もやってみようかな…」

千草は少しずつ、発表会に対して前向きになっていった。自分の詩を多くの人に届けることができる機会。怖さもあるが、それ以上に自分の詩が誰かの心に届くかもしれないという期待が湧いてきた。


文化祭当日が近づくにつれ、ポエムの会では発表会に向けての準備が進んでいた。部室ではみんながそれぞれの詩を選び、展示する作品や朗読する詩を決めていった。千草も、自分の詩をいくつか書き直し、どれを発表しようか悩んでいた。


「どの詩を発表しようかな…」

千草はノートを広げ、これまで書き溜めた詩を眺めていた。島の風景、友情、自分の心の中にある感情。それぞれが彼女にとって大切な作品だったが、その中でも一つ、特に思い入れの強い詩があった。


「風に揺れる心」


風に乗せた言葉は

どこへ行くのだろう


届かない場所にいても

心はいつも風に揺れている


孤独な夜も、喜びの朝も

風が吹けば、心は応えてくれる


だから私は、風に問いかける

私の言葉は、あなたに届いていますか?


「この詩にしよう…」


千草は、これまでの自分の気持ちをまとめたこの詩を発表することに決めた。風のように、自分の言葉が誰かに届くかもしれない。そんな思いを込めて、彼女はこの詩を選んだ。


文化祭当日、学校中が賑やかな雰囲気に包まれていた。各クラスや部活がそれぞれの企画を行い、校内は人々で溢れていた。ポエムの会の発表会も、校舎の一角で行われていた。教室には部員たちの詩が壁に展示され、訪れた人々がそれを読みながら静かに感想を口にしていた。


千草は少し緊張しながらも、自分の詩が展示されているのを見て、誇らしい気持ちになっていた。麗美や他の部員たちの詩も、それぞれの個性が光っていて、来場者たちが興味深そうに見入っていた。


そして、朗読会の時間がやってきた。小さな舞台に立った千草は、心臓が高鳴るのを感じながらも、深呼吸をして自分の詩を読み始めた。


「風に乗せた言葉は…」


自分の声が静かな教室に響き渡る。その瞬間、千草は自分の言葉が本当に風に乗って誰かに届くような感覚を味わった。周りの人々が彼女の詩に耳を傾け、感情を込めて聞いてくれている。そのことが、千草に大きな勇気を与えてくれた。


朗読を終えると、会場からは温かい拍手が送られた。千草は少し恥ずかしそうに微笑んだが、その瞬間、彼女は確信した。自分の詩は、ちゃんと誰かに届いたのだと。


ポエムの会の発表会は大成功に終わり、千草は自分が大きな一歩を踏み出したことを感じていた。詩を書くこと、そしてそれを誰かに伝えること。それは、千草にとって新しい世界の扉を開ける体験だった。これからも彼女は、詩を通じて自分を表現し続けるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る