第4話 詩を書く心、千草の初作品
ポエムの会に入ってから数週間が経った。千草は毎日部室に通い、麗美や他の仲間たちと詩を共有することが楽しみになっていた。しかし、まだ自分の作品をみんなの前で発表することはしていなかった。自分の詩が他の人にどう受け取られるのか、少し怖い気持ちがあったのだ。
ある日、健太が声をかけてきた。
「千草さん、最近どう?何か詩は書けてる?」
「うん、少しずつだけど書いてるよ。でも、まだみんなに見せるには自信がなくて…」
千草は素直に自分の気持ちを打ち明けた。健太は優しく笑いながら頷いた。
「それは自然なことだよ。詩を書くって、自分をさらけ出すようなものだから、最初は怖いのが普通。でも、詩は誰かに見てもらってこそ、新しい意味が生まれるんだ。無理にとは言わないけど、準備ができたら、僕たちに見せてくれると嬉しいな」
千草は健太の言葉に少しだけ背中を押された気がした。詩を書くこと自体は好きだが、それを他の人と共有することの難しさを感じていた。しかし、仲間たちはみんな温かく、彼女の不安を理解してくれている。だからこそ、挑戦してみる価値があるかもしれない。
その夜、千草は家で一人、机に向かっていた。窓の外からは島の夜風が心地よく吹き込んでくる。彼女はこれまで感じていたことや、島での生活で出会った風景を思い返してみた。
「この島に来てから、何を感じたんだろう?」
千草はペンを取り、自分の心に問いかけるように、ゆっくりと詩を書き始めた。
「島の風」
静かな波の音が響く
風が運ぶ砂の匂い
見知らぬ土地での新しい日々
心に吹く風は
優しくも、少し冷たい
この島で見つけたものは何だろう
忘れたくない、何かがここにある
風に乗せて伝えたい
私が感じた、あの瞬間を
千草は詩を書き終えると、少しだけほっとした気持ちになった。この詩は、彼女が島に来てからの心の動きをそのまま表現したものだった。まだ自信はなかったが、詩を書き上げたことで少しだけ勇気が湧いてきた。
次の日、放課後のポエムの会で、千草はその詩を発表する決意をした。部室に集まった仲間たちが、それぞれ自分の詩を読み終えると、健太が千草に目を向けた。
「千草さん、今日は何か書いたものがあったら、ぜひ読んでみてほしいな」
千草は深呼吸をして、緊張しながらノートを開いた。心臓が高鳴るのを感じながら、書いた詩を読み上げ始める。
「…静かな波の音が響く…風が運ぶ砂の匂い…」
自分の言葉が静かな部室に響く。途中、声が少し震えたが、最後まで読み切った。読み終わると、しばらくの沈黙が続いたが、次の瞬間、仲間たちが拍手を送ってくれた。
「素敵だったよ、千草ちゃん!」麗美が微笑みながら声をかけた。「島での感じたことが、すごく伝わってきた」
健太も頷いていた。「初めての作品としては、本当に素晴らしいよ。自分の心をちゃんと表現できているし、その透明感がとてもいい。これからもっと色んな詩が書けるはずだよ」
千草はみんなの言葉を聞いて、心からほっとした。そして、自分の詩が受け入れられたことに喜びを感じた。詩を書くことが、誰かと心を通わせる手段になるとは、今まで考えてもみなかった。
この日、千草は自分の中で大きな一歩を踏み出した。詩を書くことで自分を表現し、それを共有することで仲間と繋がれる。そのことが、これからの千草の詩作活動に、さらなる意味を与えていくことになるだろう。
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