第1話 新しい風、島での出会い

朝の光が差し込む小さな部屋で、千草は目を覚ました。窓の外には、昨日見たのと同じ静かな海が広がっている。島に引っ越して初めて迎える朝、どこか不思議な感覚が千草の胸に広がっていた。慣れ親しんだ都会の景色とは違う、穏やかでのんびりとしたこの島の雰囲気。これが、これから自分が過ごす場所なのだと思うと、少し不安にもなった。


「今日からこの島の高校に通うんだ…」


千草は制服に袖を通し、鏡の前に立った。少し緊張している自分の顔を見つめ、深呼吸をしてみる。新しい環境で、新しい友達ができるだろうか。そんな思いが頭をよぎるが、答えはまだ見えなかった。


学校は家から歩いて15分ほどの距離。古びた木造の校舎が、静かに佇んでいた。全校生徒100人程度という規模は、千草にとって驚くほど小さく感じられる。都会の大きな学校とはまるで違う。


「大丈夫、きっとなんとかなる…」

自分に言い聞かせながら、千草は校門をくぐった。教室に入ると、もうすでに数人の生徒が座っていた。みんな、何かしらの作業をしている様子で、授業が始まるという緊張感はあまり感じられない。のんびりとした雰囲気が漂っていた。


「君が今日からの転校生?」


声のする方を見ると、隣の席に座っていた少女がにこりと微笑んでいた。肩までの黒髪が風に揺れ、どこか落ち着いた雰囲気を持つその少女は、千草より少し背が高い。


「うん、千草っていいます。よろしくね」

「私は麗美。よろしくね、千草ちゃん」


麗美は、まるで前から知っていたかのように自然に話しかけてきた。千草は少し安心し、笑顔を返した。これが、千草の最初の友達になるとは、まだこの時は想像していなかった。


「ところでさ、千草ちゃん。ポエムって書いたことある?」


突然の質問に、千草は少し戸惑った。ポエム。そう言えば、彼女も中学生の頃、密かに詩を書いていたことがあった。ノートの端に、自分の気持ちを言葉にして綴るのが好きだったが、それを誰かに見せたことは一度もなかった。


「少しだけ…昔、書いてたことがあるよ」

「へぇ、そうなんだ!実はね、私、ポエムの会っていう部活に入ってるんだよ。良かったら千草ちゃんもどう?一緒に詩を作って、同人誌を発行してるんだ」


ポエムの会。千草は少し興味が湧いた。詩を書くのは好きだったけれど、それを誰かと共有するというのは全く新しい体験になりそうだ。


「面白そう…入ってもいいのかな?」

「もちろん!放課後、部室に案内するよ」


麗美は笑顔でそう言い、千草は自然と頷いていた。島の新しい生活が、少しずつ形を成していく。千草の胸の中で、新しい風が吹き始めたのだった。

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