第11話 リナの秘密

微細たこ焼きがもたらした強烈な感覚から解放された翔太とリナ。彼らはそれぞれの心の中に押し込めていた過去や感情と向き合うことを余儀なくされた。翔太は、過去に失われた記憶の謎に気づき始め、リナもまた、自分の心の奥底に秘めた何かを感じ始めていた。


二人はしばらく言葉を交わさず、深い沈黙が続いていた。屋台の前に座り、心の中で感じた衝撃を整理しようとしていた。やがて、リナが静かに口を開いた。


「翔太…私、実は隠していたことがあるの」


その言葉に、翔太はリナを見つめた。リナの表情には、迷いや葛藤が浮かんでいた。翔太はただ黙って彼女の言葉を待った。


「私…実は、微細たこ焼きの存在を知っていたんだ。もっと前から」


翔太は驚きの表情を浮かべた。「どういうことだ?」


リナは深く息をつき、続けた。「実は、私のおじいちゃんがかつてたこ焼き師だったの。彼は伝説のたこ焼き師として知られていて、微細たこ焼きを作ることができた最後の一人だった。でも、彼はその技術を封印し、二度と作らないと決めたの。なぜかは教えてくれなかったけど、私はずっとその理由を知りたくて…」


翔太は、リナの突然の告白に驚きを隠せなかった。リナが自分と同じく微細たこ焼きを探していた理由が、単なる好奇心ではなかったのだと気づいた。


「じゃあ、リナが俺と一緒に旅をしていたのは、おじいさんのことが関係していたのか?」


リナはうつむきながら頷いた。「そう…私はおじいちゃんがどうして微細たこ焼きを封印したのか、それを知りたかったの。彼が何を恐れていたのか、何を隠していたのか。それが気になって、ずっと探していたの。でも、誰も真実を教えてくれなかったから…だから、この旅に出たの」


「それなら、最初から教えてくれればよかったのに」と翔太は静かに言った。


「ごめんなさい…」リナは俯きながら謝った。「言えなかったんだ。私自身も、どこまで話していいのか分からなかったから…」


翔太はしばらく沈黙した後、優しく笑った。「でも、今は俺たち、同じ目標を追ってるんだろ? 君が何かを隠していたとしても、俺は君を信じてるよ。それに、君がその秘密を抱えながらも、俺と一緒に旅を続けてくれたことに感謝してる」


リナは翔太の言葉に少し涙ぐみながら、「ありがとう」と小さく囁いた。


「でも、おじいさんが封印した理由って何なんだろうな。何か危険なことがあるのか?」翔太はリナに問いかけた。


リナは眉をひそめながら、「それがまだ分からないんだ。おじいちゃんは生前、その理由を誰にも明かさなかった。でも、きっとこの先に何かがあるはず。微細たこ焼きはただの料理じゃない。それは分かっている。でも、どうしておじいちゃんがあれほど恐れたのか…」


翔太は考え込んだ後、料理人の言葉を思い出した。「心を映し出すたこ焼き…それは、食べた者の内面を暴き出すものなんだよな。それがあまりに強烈で、人によっては自分を見失うこともあるって言ってた。もしかすると、それがおじいさんが恐れていたことかもしれない」


「確かに、それはあり得るね…」リナは深く頷いた。「おじいちゃんは、自分の作ったものが人にどう影響するか、それを恐れて封印したのかもしれない。でも、私はそれを確かめたい。自分自身が何を求めているのかを知るために」


翔太はその決意を感じ取り、彼もまた心を強くした。「じゃあ、この先に進もう。お前の答えも、俺の失われた記憶も、この旅の先にあるはずだ」


リナは目を輝かせて頷いた。「うん、行こう!」


二人は気持ちを新たに、微細たこ焼きの真実を探すため、さらなる旅を続けることを決意した。リナの秘密が明かされたことで、物語は新たな方向へと進み始める。そして、彼らは知らず知らずのうちに、微細たこ焼きの核心に近づいていた。


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