第9話 謎の料理人現る
屋台街の奥へと進む翔太とリナ。夕暮れが過ぎ、辺りはすっかり暗くなり、不気味な静けさが漂っていた。老人の言葉が頭を離れない。「自分と向き合う覚悟が必要だ」という言葉が、二人の心に重くのしかかっていた。
「奥に何が待ってるんだろう…」リナが不安そうに呟いた。
「俺たちが探してる答えだ。微細たこ焼きの秘密が、この先にあるはずだ」と翔太は言ったが、実際には自信を持てなかった。何が待っているのか、彼自身も全く予想できなかったからだ。
二人が歩を進めていくと、突如として奇妙な光が遠くに見えた。屋台街のさらに奥に、一軒だけ煌々と灯りが灯る屋台があった。どこか幻想的な雰囲気で、まるで時間が止まっているかのような場所だった。
「何か、ただならぬ感じがするね…」リナが呟いた。
翔太も同感だった。「きっとここに何かあるんだ。」
二人がその屋台に近づくと、今までとはまったく異なる匂いが漂ってきた。それはたこ焼きの香りではなく、何か未知の料理のような香り。屋台の中では、長い白髪を束ねた男が黙々と料理をしていた。その姿は、まるで舞台上の役者のように完璧で、手際が美しい。
「君たち、ずいぶん奥まで来たね」とその男が言葉を発した。彼の声は低く、しかしどこか優雅さが感じられた。
「あなたが…微細たこ焼きを作る料理人ですか?」翔太が尋ねると、男は少し微笑んで答えた。
「そうだ。そして、私が最後のたこ焼き師でもある。ただし、微細たこ焼きがただの食べ物だと思っているのなら、それは大きな間違いだ。」
リナは戸惑いながらも聞いた。「どういうことですか?微細たこ焼きには、どんな秘密が隠されているんですか?」
男は料理を続けながら、ゆっくりと語り始めた。「微細たこ焼きは、古くからの技術を持つ者だけが作れる特別な食べ物だ。しかし、それはただのたこ焼きではない。食べる者の内面を映し出し、彼らの心を試すもの。どんな過去を背負っているのか、どんな未来を望んでいるのか…それを知るための鍵でもあるんだ。」
翔太はその言葉に引き込まれた。彼の頭の中には、自分の曖昧な記憶と、それが微細たこ焼きにどう繋がっているのかが駆け巡っていた。
「でも…なぜそんなたこ焼きが作られたんですか?」翔太が尋ねた。
男は一瞬の間を置き、目を閉じて答えた。「この世界には、自分自身と向き合うことを避ける者が多すぎる。だから、微細たこ焼きはその者たちのために作られた。自分の心の中にあるものと対面し、どの道を進むべきかを選ばせるために。それが、この料理の役割だ。」
「でも、そんなものを食べる必要があるんですか?」リナが戸惑いながら問うた。
男は微笑みながら言った。「それは君たち次第だ。微細たこ焼きは、ただの味覚のためのものではない。それを食べる者は、己の運命を変えるかもしれない。だが、その代償として自分自身と向き合わなければならない。心の奥に潜む恐れや後悔をすべて晒す覚悟があるのか?」
その言葉に、翔太とリナは深く考え込んだ。これまで追い求めてきた微細たこ焼きが、単なる美味しい食べ物ではなく、心を試すものだと知った今、彼らは本当にそれを手に入れるべきなのかという迷いが生まれた。
しかし、翔太は意を決して言った。「俺は、それでも食べてみたい。自分の過去や、失われた記憶に向き合う覚悟がある。」
リナも少しの間考えた後、頷いた。「私も。運命が変わるかどうか分からないけど、翔太と一緒にここまで来たんだから、自分の心と向き合ってみたい。」
男は満足げに微笑み、静かにたこ焼きの生地を流し込み始めた。「よかろう。だが、覚悟しておくんだ。これが君たちの人生にどう影響を与えるかは、私にも分からない。」
そして、微細たこ焼きが焼き上がる瞬間が近づいていた。二人の前に差し出されたそのたこ焼きは、噂通りにアリほどの小ささで、目を凝らさなければ見逃してしまいそうなほどだった。
「さあ、食べてみなさい。その瞬間、お前たちの心に何が浮かび上がるか、楽しみにしているよ。」
翔太とリナは、緊張しながらもその小さなたこ焼きに手を伸ばした。食べたその瞬間に、何かが彼らの中で変わり始めるのを感じた。
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