8話 3分?
気づけば走っていた。学校に早く着きすぎたせいか、下駄箱も教室も静まりかえり、空気が少しひんやりとしている。
俺はあの現象を見たことがある。いや、正確には"同じようなものを"見たことがある。
俺が最初に見たものはカップラーメンだった。カップラーメン?となるかもしれないが、もちろんあのカップラーメンだ。
日曜日の昼下がり、俺は漫画を読みながらリビングのソファーでのんびりと過ごしていた。お腹が空いて時計を見ると、時計は12時をとうに過ぎてしまっていた。
(さすがに腹減ってきたな、なんか食べるか)
漫画を見る手を止め、ぱたりと閉じる。
俺はあんまり漫画やらアニメやらは見ないのだが、コージから「一生のお願いだからコレだけは見てくれ!絶対ハマるから!」と急にシリーズ全巻入った紙袋を押し付けられ、こうして暇な時間に読んでいるのだ。
決してハマったわけじゃない、うん。
いつもならこの時間帯になると栞は昼ご飯を作っていてくれるのだが、その日は友達と遊びに行っているため栞も家に居なく、だからといって外食するような気分でもなかったため、戸棚から最近気に入っていたカップラーメンを取り出した。
ペリリと蓋を半分まで開き、かやくやスープの粉を取り出して、お湯を入れる。
(そうだ、タイマータイマーっと……)
タイマーをセットしていると、何故か台所にあるはずのカップラーメンがリビングの机の上に置かれていた。
(……なんでここにあるんだ?)
訳がわからず、とりあえずカップラーメンを取ろうとする。
が唐突に机がグラリと揺れてカップのバランスが崩れた。
「ちょっ!漫画が!」
唐突にバランスが崩れたカップを止めれるはずもなく咄嗟に目を瞑る。
(うわー、コージになんて言えばいいんだよ……)
スープが染み込んでしまった漫画を見て、悲しむコージの姿が頭の中に浮かぶ。すまんコージ……って、え?
(んん?どういう事だ?)
そこにはカップラーメンの姿はなかった。スープの一滴も垂れた気配がなく、まるで元からその場所に存在していなかったかのようだった。
流石に同じような光景をまた目の当たりにしたくはなかったので、不思議に思いながらも台所で適当にかやくとスープの素を入れ、カップラーメンをすすっていると、ガチャリと玄関のドアが開く。
「ただいまー!」
(ん、帰ってきたか)
「これみて!お兄ちゃん!!」
栞がバタバタと靴を脱ぐ音がする。
ガチャッ
「ほらこれ……ッ!」
満面の笑みでぬいぐるみを頭上に掲げた栞が机に足を引っ掛けて転けた。
「おい!大丈夫か栞!!!」
「いってて……」
「怪我はしてないか……?」
栞が痛そうに足首をさすっていたのでそっと触ってみる。
「いたっ……」
「……軽い捻挫みたいだな、これで冷やしとけ」
冷凍庫を開けて保冷剤を取り出し、冷たくなり過ぎないようタオルで軽く覆ったものを栞に手渡す。
ピピピッ!ピピピッ!
「お兄ちゃん、何かタイマーなってるよ?」
「あぁ、カップラーメン作ってたんだよ」
栞がタイマーを止めに台所に行く。
「ちょ、安静にしとけって」
「ご、ごめん……ってなんで食べかけ?」
「そりゃあ、カップラーメンは2分が一番美味しいからな」
「3分タイマーの意味……」
栞は呆れたようにため息をつく。
「おそらく回想中だろうけど、間に合いそうか?」
「うぉっ!?なんでお前が居るんだよ!!」
「追ってきたからに決まってるだろ?」
何を言っているんだといった様な目でコージが俺をみる。
「んで、何分だったっけ?」
「……3分」
「いい感じにカップラーメン作れそうだな」
「カップラーメンは2分だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます