5話 昔の話



(久々だな、この夢も……)


 まだ俺は忘れようとしてくれない、いやしていないのだろう。



「…27…28…29…」


30!!


「もーいーかーい!」




 俺には昔、幼なじみの女の子がいた。


 その女の子はいわゆる箱入り娘というもので、門限が厳しく、たまにしか遊んだり、ましてや会うことさえ出来なかった。


 しかし、金曜日だけ親の監視が外れるらしく、こうしてこっそりと公園で会っていた。


 今考えれば、多分使用人の人たちにはバレていたんだと思う。


 当時の俺達はそんなことにも気が付かず仲良く遊んでいたんだが。




「へんじはー!!さがしちゃうからねー!」


 そう言うと子供の頃の俺は一直線にその女の子の元へ向かい見つけてしまう。


(あぁ、そうだったな……これでよくこの女の子に怒られてたんだっけ)


 懐かしい気持ちと同時に心にチクリと来るような痛みを感じる。


「あぁーっ!ずるいずるい!その"ちょーのうりょく"は使っちゃダメって言ったじゃん!」


 綺麗な銀の髪色をした女の子は、そう言って頬を膨らませ、怒ったような顔をする。


「えー!!そうなら早くいってよー!」


「言ったもん!さんかげつぐらい前に!」


「そんなに前の事おぼえてない!」


「私はおぼえてたもん!」(ドヤ顔)



知るかよ!とツッコミたくなる。

あとなんでドヤ顔なんだよ……



彼女は昔から物覚えが良かった。


 誰よりも早くかけ算を覚えて、ドヤ顔に俺に自慢してきたり。


 時間割を完全暗記して俺にドヤ顔で教えてくれたり。


 「明日の給食なんだっけ」と呟いた時には1週間分の給食の献立、なんならカロリーまでドヤ顔で答え出していた。


……なんか一生ドヤ顔してないか?



 唐突に強い風が吹く。



 俺とあの子の懐かしい思い出が、風景が、風に流されて飛んでいく。


 そして、景色は一変する


「だから!息子はそんな所へは行かせない!」


 いつも温厚でにこやかに笑っていた父親がかなりの剣幕で怒鳴り散らし、電話を切る。


「さとる、栞ちゃんが起きちゃう」


「あ、あぁ、すまん、つい、」


 そして、母親は栞の頭を撫でながら俺の事を見つめ、こう言う。


「そんな顔しないで。大丈夫、私たちが守るから」


 夢の中で何度も見た光景だ。


 子供の頃の俺にはその言葉の意味は分かっていなかった。だけど、直感的にいい事ではないと感じ取っていたのだろう。



"ギフト"


 それは、今では誰もが与えられ、特別珍しい物ではなくなった。


 しかし、その力は20年前に突如として与えられ始めた物であり、突然与えられた力に国全体が混乱に陥った。


 そこから5年たち、ある程度落ち着いた頃に"名家"と呼ばれる派閥が出来た。"名家"と呼ばれる派閥では、与えられた力の中でも特殊な力を持つ者達が集められていた。


 どうやら俺もその"特殊な力"を持っていたらしく、至る所からお誘いの電話が来ていたようだ。

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