龍哉様の訴えを遮らず聞かれていた、スマホの向こうの隆正様の声が、低く、冷たくなる。
背筋が冷えるほどの冷たい低音。
「……」
「西の馬鹿は論外だ。どの世界にもいる災厄のようなものだ。巻き込まれて亡くなられた罪なき若者を
隆正様の絞り出すような声に苦渋が
俺のほうから清瀧の主従関連の事情に関しては、会長、組長に情報の濃さを変えて報告している。
流れ的なものはそのままに。表現を変えているというか。
当たり前だ。
清瀧会長と神龍会長様のご親交だけでなく、清瀧組長と神龍組長も実は
それはそうだろう。
【組長の息子同士】の踏み込んだ
もしも龍哉様が名もしれぬ組の箱入りならばとっくに消されている。知己の息子だから、見過ごされているのだ。
大人が見守る、大きな、大きな籠のなかで。
しかしいくら知己でも。清瀧主従にされたことをそのまま伝えれば。
百戦錬磨の度合いが違う会長様と組長では我慢の抑制が違う。
それに、お膳立てがあった養子のやり取りとはいえ、隆正様にとっては大事な甥、いまは可愛い息子。
確実に激怒する。隆正様はお優しさが勝つぶん、真に激怒した時はなかなかに恐ろしい。
だが今回は清瀧の組長、宜圭様が知った即日に主従の引き離し、側付きの篠崎さんの謹慎、自分の持ち店の料亭宿への文親様の軟禁と対処が迅速だったので、組の大事にはならなかった。
非公式に組長に謝罪があったとも聞いている。
「あの、若造」
「…父さん」
「済まない、龍哉。俺は今から、酷いことを言う」
「………」
「お前達の事は納得している。俺も爺様も。宜圭も無言は貫いているが、あれが無言なのは黙認の証だ。
関わりを詳しくは聞かん。野暮で無粋だ」
「……っ…」
「だがな。俺は今、物申したい。宜圭ではなく、あの…若造に」
「とうさん、」
「うちの息子をズタズタにしているのは…亡くなられた若者でもない。ろくでもない西の馬鹿者でもない、お前じゃないかと」
「……っ」
「隆正様…」
「…言ってやりたい」
「……っ……う…っ……」
「龍哉……」
「明日美も気丈な女だが、あれだとてやはり
「……父さん」
「いまは、無理に呼ばなくていい、【父】と」
「…伯父さん」
「だが…お前は…明日美を…慕ってくれていた。…内心など、聞かん。明日美を伯母としてでも、養母としてでも。桐生に入ってから俺達を親にしてくれて、懐いてくれていた」
「…うん」
「それでも、そこまでの忌避をお前にさせる。むき出しのお前の自衛が明日美にまっすぐ向いている。あの清瀧の若造の幻が明日美の愛すら恐れさせる」
「………っ……」
「十代の一時的に狂った情緒に目くじらを立てても仕方ないと人は言うだろう。だが、お前をここまでにしたのがあの若造の【愛とやら】なら…」
「…おれは」
「龍哉様……」
布団の上に横たわる彼の
隆正様がもし、龍哉様とお会い出来たなら、きっと、誰よりも彼の心に添うだろう。
文親様への怒りに、震えながら。
「おれは今、あいが、こわい」
「龍哉…」
「かわいそう、の乗った【あい】も、守ってあげる、の乗った【あい】も」
「……っ」
「いまは、こわい。あと少しだけ、ほんの少しだけ、離れていたい」
切ない、呟き。
「おれはもともと、愛をおそれて、捨ててきた。初めに求めた愛は、おれをみることもなく。周りからはまとわりつくような愛ばかり差し出されて」
「………」
「………」
電話の先と、布団の横。
二人の男が、一人の少年の呟きに言葉を無くす。
「…求めるものと違いすぎるものしかなければ、嫌にもなるさ。愛が、嫌なんじゃない。十六年しか生きていなくとも、区別くらいつくさ。おれは……おれは」
「龍哉様!」
「【俺が歪ませる愛】が駄目なんだ」
「…っ…」
「………」
「…父さん」
「龍哉」
「いまは清瀧の事は放置で」
「…良いのか」
「落とし前は俺がつける」
「……龍哉」
「因幡はいつか目にモノみせる。…長期戦になる気がする」
「……」
「だけど、その前に一度、はじめての大喧嘩ってやつをブチかます」
「龍哉…(笑)」
「有難う、笑ってくれて」
「……」
「そのためにも気力体力つけなきゃ」
「隆正様」
「黒橋」
「くろはし?」
「龍哉様を褒めて差し上げてください」
「……?」
「ご面談が成らないのなら、隆正様にはお伝えを」
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