真摯しんしな言葉に龍哉さんの顔を見れば。

もう彼の眼は笑ってはいなかった。


「俺をけなすのは構わねえよ。だけど、そこに親父や爺さまを出されたら言われ損にしとく訳にはいかねえ。俺を通して【上】を貶す事を放置すりゃ、下にそれはどんどん広がる。石田にいた時とは違うんだ。火は親に行く前に子が消さなきゃいけねえと思う」

「坊ん……」


真っ直ぐに俺達を見つめて。

たった十五の少年の口から紡がれる、鮮烈な、覚悟。

歴戦の松下の叔父貴すら、言葉を無くす、確かな輝きを放つその、【威勢】。

…本当に、末恐ろしい。


「…組長アニキはいい子を持ったなあ、黒橋」

「…はい」

「『卑怯な馬鹿野郎共に自分の親父を侮辱されて、逃げ帰るような弱い子どもなら、はじめからここには来てねえ』、か。後で、組長アニキに教えてやろう(笑)。…久しぶりに涙ぐむ兄貴が見られんな~、楽しみだ(笑)。いや、号泣かな?」

「やめてくださいよ、松下の叔父さん。親父になつかれんの嬉しいんだけど、しつっこいんだよ、…嫌じゃないけど(笑)」


また笑顔になる龍哉さん。

くるくると変わる表情。心を許すものの前ではこんなにも変わるのか、そう、思わせる。

その一人の中に自分が入っているのだろうか…。

信じられないけれど。

思うと、心の、どこかいちばん柔らかい部分にそっと触れられたかのような苦しさを感じ、押し込め、凍らせた筈の自分にまだ苦しさや痛みを感じる情が残っていたのかと驚かされる。

それが苦しさではなく、もっと複雑な心情おもいだったと知るのは、遥か…将来さきの話───。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る