─── 一年後。
「…だから?それがどうしたと言うんですか?」
「生意気なんだよ、お前は」
「…また、それですか?飽きませんね、あなた達も」
「
隆正組長や、明日美姐さんの眼を盗むようにして。
人を
「別にあなた方からどう思われようと私は構いません。どいてもらえませんか?この事務資料は今日中に整理を終えてしまいたいので」
「……っ、楽な仕事ばかりやりやがって。汚れ仕事は先輩にやらせて、てめえは
けっ、と毒づいて見せるのは、名すら面倒臭くて覚えるのを止めた、二、三年年長の二人の若手達。
とうとう、俺の肩をドン、と押して。
廊下にバラバラと散らばる資料。
「あ……」
「…這いつくばって拾えよ、先輩が見ててやるからよ?」
「………」
「ほら、拾えよ?惨めに床に身をかがめて、みっともなくよお?それで今日は許してやるからよ?」
……面倒臭い。カスども。
世迷いごとを聞き流すのも面倒臭いし、事務かたの仕事は組の立派な作業のうち、少し相手をするか。
そうしなければ
思って眼を細めた、時。
「…あれー、黒橋さん、どうしたの~?」
聞こえてきたのは。
「紙が廊下に散らばってる?」
ひょい、と奴等の後ろから顔を出し、横をすり抜けて廊下に散らばった資料を
俺に渡してくれたのは、正式に養子となって桐生籍に入った龍哉さん。ゆくゆくは神龍の後継が約束された、組の若手や中堅にとってはもはや、【上】の人。
年は、まだ十五だけれど。
進学した高校は政治家、資産家、そしてこうした筋の子息。受け入れOKの上、結構な進学校だ。
帰宅して、すぐのようで鞄はなかったがまだ制服のままだ。
「はい♪これで全部?」
「はい。…ありがとうございます、坊ん」
「いやいや♪…でもおかしいね?黒橋さんはまだ両手にファイル抱えてるから無理だとしても。俺の後ろには四本の手があるはずなんだけど?何で拾わなかったのかなあ?もしかしたら、意地悪?」
…完全に分かっているくせに。
「そ、そんな…」
「坊、俺らは…っ」
「……随分と暇をもて余してるんだね?若手って結構やること有りそうだけど」
「あ……その……」
「…俺達は……」
「あのさ、【先輩】ってのは、尊敬できるから【先輩】なんであって、自分たちはまともに
「…っ……」
「お前達こそいいご身分だなぁ、何にもしねえくせに今日もこれから夕飯、夜食、食えるんだろ?……さっさといけよ、頬っぺたに『お前なんか組長の甥で息子で将来決まってなきゃ、ただの堅気の半端者のくせに』って書いてあんぜ?黒橋さんの【先輩】さんがた?」
「……っ!」
「………!」
「おーっと、覚えてろは言わせないぜ?黒橋さんはちゃんと仕事を完璧、それ以上にこなしてんだから余計なことは記憶不可だ。…行けよ!」
「………すみませんでした…っ」
小さく悔しげに言って二人はその場から消える。
「有難う…ございました」
「…ごめん、余計かなとは思ったんだけど…」
「いえ」
「…あーいうの、大嫌い。努力が嫌いなくせにこっちが好きでしてる努力を笑う奴、妬む奴。努力しねえから上がれないのを受け入れないんだよな、ああいう馬鹿は。取り立てねえこっちのせいにしやがるとか超、アタマ悪い。食って寝てサボって下イジメてるやつと、元々能力もキチンと有るけど、それに甘えるのが嫌で見えない努力を見えないからこそ負けん気出して続けるやつと。どっち取り立てるのが組のためか、火ぃ見るよりもあきらかだろうが」
「…坊ん」
「半端な正義感じゃねえぜ。
「…さすがに相手しなければいけないかと思っていたので、…助かりました」
「えー?じゃあ、俺、あいつら救ってたんじゃん?」
「!」
「黒橋さん、実はバリバリ武闘派でしょ?身のこなし見りゃ分かる」
「…どこを…見れば…?」
思わず聞いてしまうと。
「んー、足の運びかたと姿勢と体幹?…後はナイショ」
「………」
「まあ、でも、その場合は俺もちびっと動いて硝子の引き窓開けて、あいつらが庭に無事投げ出されるようにしないと、掃除大変になってたからなあ。蹴りかまそうとしてたんなら避けるだけで済んでたけど?」
「貴方は一体…」
「うん?半端者の無愛想で生意気な馬鹿息子?」
「…ご冗談を」
俺は龍哉さんの目の前では事務かたの姿しか見せた事は、ない。
「【眼】が。細かく動いてた。あいつらの関節のどこを的確に蹴るか。やり返してきた場合、どうするのが効果的か」
「……っ」
【眼】の動きだけで知れた?
「…俺さ、結構きつい顔に見えるらしいから。眉はしっかりめ、目だって三白眼って言われるし。喧嘩なんか売ってねーのに、幼稚園の年少ぐらいから、絡まれる絡まれる。猫見て歩いてたら、にらんだろうって、小学生に囲まれてたり。負けるもんかって気持ちだけは強かったから目付きは悪かったかもだけど。…そんなのが小学生、中学生って続けば、ね」
龍哉さんはニヤリと笑う。
「だんだん、根性悪にもなるさ。どう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます