何かを想いだすかのように、姐さんは伏し目がちになる。
「…相談なんて不必要だって、言いきったあの時のあの子の顔を想いだすと、胸が痛むわ」
「姐さん」
「あの子はまだ十四よ?なのに、あの子は、何かを諦めて、代わりに何かを選びとることを知ってる。その為には…何を差し出さなければいけないのかも、ね」
「……そこまでしても、坊っちゃんはここへ来られたいと?」
失礼を承知で俺は明日美姐さんに
「ええ」
「…どうして…」
「珍しいわね、黒橋。あなたが他の人間に興味を持つなんて?」
「……」
どうしてなのだろう。
いつの間にか凍らせた筈の俺の感情がなぜあの少年の事にだけ、これほど反応するのか。
馬鹿げている。
分厚く覆い隠した筈の自分の『地』が、あの子どもの目線一つで揺らぐなど…おかしい。
「でも、悪いことではないわね。あなた、今、ありきたりの二十一歳の眼を、してるもの」
「!」
「今日のこの日のふれ合いを、未来のあなた達が懐かしく想い出す日もくるのかしらね」
「姐さん」
そうだろうか──。
そんな日が、来るのだろうか。
たかが数十分の初めてのふれ合いを、忘れがたく想いだす、その日が──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます