わざわざ上座からおりてきて顔も知らねえ若造の前に座った他組の
そして組の代紋を両肩と背に
逃げる気も誤魔化す気もない。
高央は何事かと少し慌てているのが知れるけれど。
「動機は申し上げません。それは俺と津島のものですから。経緯と利害ならば、同じ組の指揮の長として。
能力が人並み以上有るのに振るう機会もその場所も与えられずに実家で飼い殺されていた
「…兄貴」
「大事な大事な【弟】ですよ。今は俺の唯一人の」
「……分からねえな。津島の組で飼い殺されていた?能力があったから、てめえに必要だったから引き上げた?それで五分に?自分の勝手か?」
きつい眼差し。少なくとも法事で、初対面で向けられるには理不尽な。
だが。
「申し訳ないですが失礼千万は承知の上で。俺への揺さぶりは無駄ですよ?
そちら様の手のうちを明かさずに、こちらの手のひらだけを開けろと言われても」
俺はフッ、と笑む。
柔らかく、見える笑み。
「結ばれる
俺は懐に入れる鳥は自分の籠の中で自由に飛ばせるために縁を結ぶ。
「…その通りだ」
はっきり言うねえ。
「樋山組長、それはうちの若頭に失礼では…」
「…十川。有り難うよ、だけどまあ、今は」
「隆正様」
「高みの見物でいい。…こいつは
「……?」
うるせえよ(笑)、クソ親父。
ハードル爆上げして
「お側で
高央の声が背後から俺を援護する。
「…盃を割った…?」
事情を知らない樋山組長は訝しげな声を出す。
「はい。樋山組長、私へのご興味の意図が若輩の私には読めませんが、若頭、いえ、兄貴は、兄弟にして頂いているとはいえ、私が生涯、
高央が答えると。
「綺麗に割ってたなあ?なあ、津島の?あと、そこの第二補佐もな?おんなじ日に盃分けして、五分と二分八で割合違うのにまあ、割るタイミングはぴったり(笑)。見てて気持ちよかったわ」
「親父、喋りすぎですよ」
「悪い悪い♪」
「どうだか」
「余計な手助けをもう一つするかな?うちの息子と津島高央の絆についちゃ、
「!」
樋山組長が高央に向けていた顔を俺へと急いで向けなおす。
「餓鬼じゃねえか」
と、そこで。
「お話中、大変申し訳ございません。…後継、組長とお話させて頂いても?」
「…いいぜ」
「それでは御許しあって、第一補佐黒橋、組長様にお話させて頂きます」
淳騎が笑顔のまま、割って入り。
居ずまいをただして話し出す。
「確かにうちの後継を歳だけで見ればご判断の通りですが…組長様、桐生龍哉は神龍の宝、次代の【東】の極道の世に名を
淳騎の
場にいる人間を一瞬で魅せる、笑み。
「隆正様と御一緒に並び座らないのは若輩者、初参入の謙譲、遠慮。作法を知らないわけでは無い。むしろきちんと
「……」
「何かございますなら直接叔父貴にお尋ねになればよろしいのでは?七回忌という、大変名誉な場にお呼び頂いておいて申し訳ございませんが、これ以上神龍の宝を、大事な【親】を下げられるなら、私ども【子】にも、勿論、【弟】である津島の叔父貴にも、『考え』が浮かばないとも限りません」
凛と背を伸ばし、樋山の組長から眼を反らさず。
言いきる淳騎の眼の底には確かな怒り。
「まあまあ、熱くなんな?黒橋?」
「後継」
「俺は餓鬼だしな?それは変わらない」
「しかし」
「お前の気持ちは受け取るが、今は引け」
「…承知」
淳騎が笑みを消し、鉄面皮に戻る。
二人とも納得済みの腹芸だけど。
「補佐が失礼を致しました。有能きわまりない執行部の要なんですが、俺への番犬気質が強すぎるのが
「…神龍の…若頭…」
眼の前で繰り広げられるやり取りは、樋山組長には刺激が強すぎたらしい。
「ちょっと推理をしてみても?」
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