うまいな、親父の話の持って行きかた。
俺の意を汲むように舩木さんを
メモメモφ(..)♪
「組長に五厘下った盃を頂いている十川景統と申します。このような大事な席にお伴の栄を賜り恐縮しておりますが、不調法無きよう務めさせて頂きますので、宜しくお願い申し上げます」
十川の叔父貴。
親父達より拳一つ分後ろに下がって正座をして。深く頭を下げて。
本来ならばそこまでしなくともいいんだが。
仮にも五厘下りだ。下げすぎれば卑屈が見え、それは組としてはあまり良くはない。だが親父に通したい義理があるんだろう。そういう意味では義理堅い人だ。
「…で。おい、そろそろ仕切れや。年寄りはここまでだ」
十川の叔父貴の口上終わった途端に。丸投げしてくる親父。
「おい、隆正?…格好が違うからそうなんだろうとは思うが、」
なんでこっちに最初から来ない、まさか作法が分からないんじゃ?って顔に書いてあるのが丸分かり。戸惑ってんじゃねえか。組長が。良いけど雑なんだよ、親父。
だから。
座ったその場で両手をついて頭を下げ。
「本日はご先代様の大事な年回忌、お身内集まる大事な席の末席に加えていただきまして、有り難うございます。神龍組若頭、桐生龍哉でございます」
頭をあげずに言葉を続ける。
「ご先代様の訃報に養父隆正が枕を濡らし、樋山のご会葬に駆けつけました時はまだ十八、三回忌に呼んで頂いた時は若頭を拝命して右も左も分からぬ未熟者。ようやく参じさせていただきました。遅参、どうかお許し下さい。本日は厳しき目で見ていただいて、若輩者をお導き頂きますよう。伏してお願い申し上げます」
ここまでを一息で。
すると。
「おい、樋山」
「…隆正?」
「悪いが、顔を上げさせてやってくれや。お前が言わねえとうちの【息子】はずっとあのまんまだからよ」
親父!
ナイスアシスト!雑さを
「…神龍の若頭、顔を上げてくれや」
「はい。お許しあって、顔を上げさせて貰います」
俺が身体を起こし、顔を上げれば。
入れ代わりに。
今迄俺の周りに座し、姿勢正しく顔を上げていた淳騎、高央、清嵩、そして国東が両手をついて、畳に伏すように頭を下げる。
「私の右から、神龍現執行部第一補佐、黒橋。挟みまして私の左が飲み分け(五分)の兄弟、津島。
後ろにいきまして左が執行部第二補佐氷見、右が本日私に不調法あってはいけませんので親父が世話係に付けた
国東を護衛とは言わないことにしたのは、勘。
招かれたさきに護衛と言えば、許してくれるところもあれば、二心なく呼んでいるのに護衛つけてくるとは何事かと難癖つけてくる手合いもいる。
樋山さんと舩木さんには感じないが、こうした場所には色んな人間が集まるものだから。
「代表致しまして、おい、津島、顔を上げて樋山の組長にご挨拶をしろ」
「はい、兄貴」
まだ伏している三人をよそに、高央は身体を起こし、樋山の組長に顔を向けて、口を開く。
「神龍組若頭、桐生龍哉舎弟の津島と申します。ご縁あって兄貴に五分の盃を頂き、本日この場にお伴出来ましたこと、恐悦至極に存じます。不調法無きよう兄を支え、懸命に務めさせていただきますので、他の者ともども宜しくお願い申し上げます」
堂々と言いきるその姿。
半年少し前のあの遠い日に、己の矜持を砕かれて揺れていた津島高央の面影はもう無い。有るのは俺の【弟】としての、そして津島央壱の唯一無二の孫としての自信を取り戻した男の姿───。
まあ、呼ばれてる方だから、何をすることもないんだが、個人的に仲の良い、しかも大分勢いづいている組の若頭が、きちんと頭を下げて初の目見えの挨拶をして低姿勢で教えを乞うってのは大分男の持つ権勢欲と支配欲ってのを満たすわな。
俺はさ、別に必要ならば頭を下げるのに抵抗無いからさ。懐に
「……津島……?」
「…はい、樋山組長」
しばし茫然としていた感じの樋山組長が、ふと呟き。
答えた高央にではなく親父に、確かめるように聞く。
「…隆正」
「なんだ?」
「…この若いのは…」
「ああ、今はもう隠居してるが四分六の弟、津島の長男だよ」
「…長男…」
「お前は面識無いだろうがよ、王照」
「津島くんとやら。…つかぬことを聞いていいか」
「はい、私で答えられることならば」
「…君のお爺様の名は?」
「………っ…」
「申し訳ないが、聞きたい。答えてほしい」
言われて、高央の
無理もない。だが。組長格からの質問だ。避けようがない。意を決するように口を開く。
「…私の祖父の名は…、津島央壱と申します」
「……!」
「現神龍組会長の五分の盃を頂いておりました。身は病に倒れましたが、私の心に今も生きる、立派な祖父でございます」
そうか。
いっそ胸くそ悪いくらいに津島の叔父貴は高央を自分の組の中で押し潰すように扱い、飼い殺してたから。
外部に出すことがなければ、知られてないのは当然か。
「津島」
「はい、兄貴」
「お前の下の名を樋山の組長にお教えしろ」
「…兄貴」
「さあ」
「…兄貴、お許し有り難うございます。組長、私の名は
「………っ……」
「王照、どうした?」
樋山組長は親父に答えず。
立ち上がって、こっちにくる。
え?
どういうこと。
俺の前にどっかり腰を下ろして。質問する気満々な感じなんだけど。
かなり
今は平伏を解いた淳騎、背後の清嵩、国東にさりげなく、そっと眼をやれば。
おい、淳騎、てめえ。
笑うの我慢してんの、俺にだけは分かるからな。
表面上、完全な鉄仮面(無表情)で感情見えなくてもな。
「…聞かせて貰いたい」
「おい、王照、法事の時間は平気か」
「まだ二時間以上あるわ。早く来てくれてありがとよ、隆正」
「……王照」
「…龍哉くん、だったか」
「はい」
「津島の長男は、どうして君の五分になった。ぶしつけは承知の上だ、聞かせてくれ」
「……構いませんよ?」
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