樋山本家駐車場に着くと。【神龍御一家】の案内板を持った端下の近くにたっている三つの人影。


大きな駐車場。神龍の駐車場所は本家玄関に限りなく近い。

関係性が影響してるのは分かるが。

…めだつなあ。人払いしてんのか、今は神龍の人間以外は居ないけど。目隠しの樹木抜けりゃ、見え見えだよ。


車が止まると。

まず、清嵩が降りて後部座席のドアを開け、反対側のドアを開けた国東の一礼を受けて高央が降り。黒橋が出て、俺を迎える形を取り、俺のすぐ後ろに暫定的に国東がつく。


「よう、来たか」

「組長の知己ちき、樋山先代の七回忌御法要、何をおいても馳せ参じさせていただきました。…十川の叔父貴、お久しぶりでございます」


親父と側に立つ男に頭を下げる。

男は俺を見て、驚いたように眼を細めている。

久しぶりったって向こうからすりゃ、ほぼ初対面だろう。


そして、もう一人。


「若頭、格好良いなあ!」

「松下の叔父貴」


こちらは手放しに大きな声で。


「色男、金と力はなかりけり、なんて言うが若頭には当てはまらねえなあ?なぁ、組長アニキ?」


がははっ、と笑いながら。

松下の叔父貴はなんだか嬉しそうだ。

法事なんだから、嬉しそうってのも妙だが、キチンと牽制けんせいになっているのが、松下の叔父貴の凄さだろう。


秀元ひでもと、落ち着け」


そこにかかる親父の声。


「アニキ、いつぶりですか、下の名呼び。嬉しいなあ」

「だから落ち着け」


松下まつした秀元ひでもと

それが松下の叔父貴のフルネームだ。

親父しか呼べないけど。

警察マッポのリストには記載済みでも、若手なんかは知らないはずだ。


「…ご案内致します。神龍御一家の皆々様」


声がかかったのは妥当なタイミング。

…いやに良い声だな。


「よう、舩木ふなき、なんだお前が迎えか?」

「本日は故人をしのんでの年回忌へのご列席、誠に有り難うございます。組長直々の命によりお迎えに参じさせていただきました」

「息子が来てから一緒に行くから、悪いが案内は待ってくれと言ったのはこっちだが。慶弔は端下の見せどころ、頑張りどころだろ?組の若頭がわざわざくるのは大げさじゃあないか?」


親父の一言で。目の前の良い声の四十くらいの美丈夫が樋山の若頭だと分かった。


えー?ちょっと…。


「親父」

「ん?」

「まだ時間ある?」

「ああ」

「じゃあ」


すうっと、俺は息を吐き、樋山の若頭に向き直る。

舩木と呼ばれた若頭も姿勢をただす。


「初めてお目にかかります。神龍の桐生龍哉と申します。ご挨拶は、樋山の皆々様にお会いしてからにさせていただきますが、お誘いを頂きながら今迄未熟にて先代への香華こうげ叶わなかった若輩者、遅参ではございますが、本日は何とぞ、御指導ご鞭撻賜りますよう御願い申し上げます」


そこで一度言葉を切って俺は左肩の染め抜かれた代紋を指先で撫でる。


「組継ぐ者として、無粋不調法は代紋の汚れ、組の恥。厳しくご指摘下さい。…同じ【若頭】として。今までの不参加の非礼、略儀ながら述べさせていただきます」


そして、わずかに肩が傾く程度の一礼。

下げすぎてはならない、このあたま


「…私のような者に組長の心許すお知り合いの、しかもご後継が…勿体ないことでございます」


言葉と共にあちらは九十度の礼。


「ほら、一人目」


俺の真後ろに立つ淳騎の、俺だけに聞こえる低い呟き。


うるせえよ(笑)。


「若頭、さすがだな?舩木ちゃんは樋山さんの秘蔵っこだからな?気に入られて間違いはないぜ?」

「だから落ち着け、秀元」


はしゃいで見せている松下の叔父貴。

あくまでも、見せている、だけ。


「…悪いな、舩木。頼むわ」

かしこまりました。組長様、若頭様、皆々様、こちらでございます」


あーあ。

俺は若頭【様】なんかじゃないんだけどね。

首の裏、かゆい(笑)。

仕方ねえなあ。


これもハッタリ。


位置を変え、前に桐生の本家、後ろに別邸の連中といった布陣で移動する。


恐らくは通されるだろう、組長の待つ部屋へ案内される廊下には、見事なまでに人の気配が無くて。

いっそ感心する。



「組長、神龍の皆々様、ご案内致しました」


かなり奥まったある一室の前で、舩木は足を止めて、中に声をかける。


「入って頂け」


中から聞こえる、渋味あふれる良い声。


「承知。皆々様、お入り下さい」


樋山主従のやり取りのあと、内側から開く襖。

和式人力自動ドア、どこの組も標準仕様だなぁ(笑)。


「よう、王照きみてる、寄せてもらったぜ」

「すまねぇな、隆正たかまさ。親父も喜んでるぜ」


早速、親父と松下の叔父貴は部屋に入り中央に進んで、組長の対面に座ろうとしている。

組長の側には上席幹部らしき人間が二人ほど。

こちらの人数に合わせるような、無理無い人数だ。

あまり上席が多いのは警戒心を示してしまうから。


だが。

俺達別邸連と、十川の叔父貴は入り口から数歩入った所に正座して、動かず。


ごめんね、中堅らしき自動ドア係(?)の人達がどぎまぎしてるのは分かってるんだけど。


樋山の組長が訝しげなのもね。


「…隆正?彼らは…?」


そう、聞くのは当たり前ですよね?


「あー…。おい、…ま、いいか。まずは。そこの若い連中の隣にいる短髪。俺の五厘下りだ。会わせるのは初めてになる。十川とかわ景統かげむねだ。

十川、近くに寄せてもらって挨拶をしろ。…若いのは後でいい。…舩木、それでいいな?」

「…はい。神龍組長」

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