翌日。


親父達は樋山本家に直行するんであちらで待ち合わせということで。俺達は国東くにさきを運転手に、樋山へと向かっていたのだが。


「とにかくお前の持ってる一番高い車で来い、か。むちゃくちゃ言いやがって」


まあ、高級車は何台も持ってるし。

手入れもさせてるから良いんだが。


「悪目立ちする事間違いねえなあ」

「メルセデス・ベンツのSクラス。相応ふさわしいと思いますがね?国東は震えてますが」

「…勘弁してくださいよ、第一補佐。それじゃなくても緊張してるんですから」

「多分俺が一番年下だぜ?それが【弟】と側近二人、護衛一人の総勢四人も引き連れて」


新車価格は安くて一千万以上、高ければ二千万は軽くいく車で登場ね、……溜め息出るわ。


「大丈夫、国東。俺もさすがに緊張してるし。車は車だ。お前の運転は信用できるから大丈夫」

「…若ぁ…」

「それだけじゃないですがね?国東は貴方のように緊張とやらが表に全く出ていないあまのじゃくと違って純粋なんです。…ただの運転手でなく、護衛としてもきているのだから、緊張して当たり前でしょう」

「…第一補佐、やっぱり、大谷さんか、せめて壹居かずいさんのほうが…」

「国東、自信を持ちなさい。お前とて、別邸では中堅以上にもう入ります。それにあんな護衛バリバリの連中、連れてこれますか。しかも壹居は新人です。お前が適任です」

「黒橋さん…」

「津島の叔父貴も第二補佐も腕に覚えはありますが、後継だけを護り、なおかつ、後継が安心して気負いなく、護られる人間となると数は限られます」


後部座席から淳騎がそう声をかけ、助手席の清嵩が、


「本日は龍哉様をよろしくお願いいたします。国東さんが龍哉様を護って下さるならば、安心して補佐の仕事に専心できますので」


優しく言い、俺のとなりの高央が、


「兄貴をよろしくお願いいたします」


そう、言えば。国東は感極まったのか、言葉は出ないが顔を真っ赤にしてうなずいている。


「…ったく、たらしどもめ…」


言えば。

うちの第一補佐様は。


「蕩しの頭目とうもくは誰でしょうね?今日はいったい何人の極道を心酔させるんだか?…後継、本日は私どもは黒スーツですが、貴方は代紋入りの黒羽織袴ですから、その辺りをきちんと胸に入れて行動なされて下さい。国東が護りやすいようにね」

「…ぐっ…」


呆れたような、面白がっているような。ったく誤算だったよ。まさかスーツじゃなくて和装でくるとはな。

高央の婚約式の時は目立つからってNGだった癖に。



「私が着せたんですから万に一つも着崩れる心配だけはありませんが、念のため」

「はいはい♪」

「良いですか?染め抜いた紋は我々の矜持プライドですから」

「責任と矜持きょうじ

べるものならば、らしくして見せろ。…ご諫言かんげん、痛みる」

「ご理解頂けているのなら、結構」


喧嘩はしてねえぜ?

むしろ逆。

だから、手におえない、と自分でも思う。


さあもうすぐ、新生別邸執行部の、【茶番劇】の時間だ───。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る