第12話「カール・ギブソンがシュートを止めると、日本は国際社会から一歩遠のく。」7

翌朝6時、草加市にて高校生 里崎大樹を対象とした捜査が行われた。

なを、当該人物は16歳の未成年であるため、本人の私生活を極力尊重し警察からの直接的な接触は行わない事となった。

つまりは、極秘の張り込み調査だ。


里崎家は草加市の住宅街にある一軒家で、2階に大樹の部屋がある。

カーテンで部屋の中は見れないが、この度ピィ事案対策課に配備された特殊車両で内部の情報がある程度確認できる。


庄司は配備されたワゴンを見て、つぶやいた。

「なんか、あのアニメみてえだな。ナントカ機動隊だっけ」


「ああ。・・・あれは公安ですから一応警察ですね」

と小峰は返した。


それは清掃会社に偽装したワゴン型の特殊車両で、内部には無線機とモニターが設置してある。

特事法をフル活用して、瞬時に効能を持つ編集可能な道路使用許可証を取っており、

日本の国道であればいつどこでも、何時間でも合法で停車することができる。

さらにOmnisから大樹のスマートフォンにハッキングすることで大樹の部屋内部の気温、湿度はもちろん、大樹の体温から脳波、心拍数、まである程度計測できる。



「omnisからピィ01(マルヒト)」


無線から湊の声がし、庄司が応じた。


「マルヒトです。どうぞ」


「大樹のスマートフォンからアラームの起動を確認。どうぞ」


「アラームの起動了解。こちらも大樹の起床を確認。

 なを現状特異同行なし。オーバー。

 さ、キヨジ君。そろそろだぜ。やっこさんが家を出たらお前さんの出番だ」


「……ういっす。なんで俺なんすかね。」


「俺だとオーラが強過ぎて目立ちすぎる。あと大樹は高校生だ。高校生なんて自意識の塊みたいなもんだから、

 女性が後をつけたら勘付かれやすいだろ。だからお前だ」


「はあ」


「コールサイン確認しとけよ」


「平気っす。庄司さんがマルヒトで俺が02(マルニー)っすね。……大丈夫っすよ素人じゃないんだから」


「……お前が一番一番危険な任務についてるって自覚持てよ?あと、日常的に英語を使う癖をつけろ。

 お前が英語を喋れなくなったら事象発生だ」


「……それって俺が被害に遭うのが前提すか!? ……たまんねえよもう……。」


「腐んなって。ほれ。勝利のお守りな。」


庄司は、タバコを一本小峰に渡した。



 


 葛原が、つながらない電話をあきらめて偽装ワゴンに戻ってくると、車の外で小峰がタバコを見つめながら何かを呟いていた。

よく聞くと小声で歌を口ずさんでいた。


「……Oh please, say to me You'll let me be your man And please, say to me You'll let me hold your hand……あ……。」


「あ、ごめんね。……邪魔しちゃって。ビートルズ?」


「あ、はい。英語使う癖つけとけって庄司さんに言われて」


「え、小峰くんで事象の発生を確認するって事?ありえないね」


「なんか俺、あの人の人間性がだんだんわかってきたっす……。葛原さんは、電話つながったすか?

 被害者の……知り合いでしたっけ?」 


「んー厳しいね。知らない電話番号でかかってきたら、出ないよね。そりゃ」


「ままならないっすね……」


すると小峰の無線が鳴った。


「ピィマルヒトよりマルニー。大樹に動きあり。家から出る模様。どうぞ」


「マルニー、りょうか・・・ラジャーっす。オーバー」


「出番だね」


「うっす。行ってきます」


このようにして里崎大樹の張り込みが始まった。

しかし、調べれば調べるほど、大樹は普通の高校生以外の何でもなかった。

もはや、「普通」とはなんだ? というパラドクスに陥るほどだ。


朝は6時に起床。朝食を済ませたら、家の近くの公園でランニングをし、

8時になったら学校に行けない代わりに、zoomで授業を受け、12時には昼食。

15時に再び公園でランニングと軽い素振りをし、18時に家に帰り、夕食を食べ、部屋で好きなアニメを見て、風呂に入り、

22時には眠りにつく。


以上が里崎大樹の高校生活だった。刑事たちは、3日間、同じ景色を見続けた。




事件は4日目、土曜日におきた。

里崎は休日は昼過ぎまで公園でトレーニングをするらしい。そのことを除けばいつも通りの日常……のはずだった。




「ピィマルニーからマルヒト」


「マルヒトですどうぞ」


「ただいま公園ですが、大樹を尾行している人間がいると思慮される。どうぞ」


「了解。対象は何人か特徴おくれ。どうぞ」


「単独と思慮される。対象、白人。短い金髪に目の色はブラック。青いパーカーに赤いハーフパンツ。ランニング中の里崎を10分間正確な距離をとって監視している模様」


「了解。マルヒトからomnis」


「omnisですどうぞ」


「里崎大樹がここ1年間で接触したと思われる白人男性を検出せよ。どうぞ」


「検索します。しばらく待て。どうぞ」


「……ちょっと……嫌な予感がするな。葛原、俺たちも行くぞ」


「……はい」


庄司と葛原は偽装ワゴンを降りて、里崎宅に向かう間に無線が鳴った。


「マルニーからマルヒト」


「マルヒトです。どうぞ」


「大樹が公園から出て行きます。なを白人も里崎を追跡してる模様。どうぞ」


「白人も里崎を追跡了解。マルヒトとマルサンも応援に向かう。どうぞ」


「omnisからマルヒト」


「マルヒトです。どうぞ」


「検索の結果、該当する人物は0人。どうぞ」


「該当人物なし。マルヒト了解。どうぞ」

「至急至急!! マルニーからマルヒト!」


「至急至急、マルニーどうぞ」


「白人に動きあり!! 銃を所持している模様!! 現在地公園の北西!!」


「白人は銃を所持、マルヒト了解!」

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