3.百合と魔法
「魔法が使えない?」
M棟501号室では、アルの入学祝いパーティーが開催されていた。
特別大きくはないテーブルの、横に座る4人と、誕生日席というのか、1人だけ縦向きに座るアルが、マグネの手料理を食べながら話し始める。
「そうです。私、魔法が使えないのです」
「え、じゃあ技能試験はどうやって……」
最初に口を挟んだのはネオだった。
「話すと長くなるんですけど……」
アルは自分の鞄に手を入れ、黒い何かを取り出す。
「銃!?」
ネオはとても驚いたように声を上げるが、
「M&P……ですか?」
コバルは冷静に分析する。
コバルの言う通り、アルが持っている銃はM&Pだが、その中でもこれはM&P Shieldだ。
シールドの愛称でも呼ばれているこの自動拳銃は、アメリカのスミス&ウェッソン社が製造するポリマーフレーム銃。
M&Pは「Military and Police(軍と警察)」の略で、法執行機関向けに設計されているが、警察や自衛隊などと同じ括りにされることの多い魔法使いであるアルには、所持が許されているのだろう。
「そうです。これは護身用というか、いつも持ち歩いているものですが、他にも色々持ってます」
「でも何で銃なんですか?」
「……なるほど。それでEMPを溜めた弾を使うのね」
首をかしげてアルに疑問を投げかけるコバルを横目にクロは、何か思い当たる節があるかのように話す。
「まあ、編入組のネオと、まだ中等部のコバルには馴染みが薄いかもだけど、魔法……というか、EMPを使えない特に男の人は、結構このタイプの銃を使うんだよ」
でも、ココの子が持ってるのは私も始めて見たよ、と付け足して話すマグネ。
クロとマグネが言っているEMPとは、「Element Magic Powe」の略。RPGゲームなど出てくる、MPとも似ているが少し違うものだ。
そもそも、EMPは人類に限らず、すべての生物が生まれたときから保有していて、体内で絶えず作成している。
そして、魔法使いたちは、このEMPを体外に放出することで、魔法を使っているのだ。
ただ、男性や、その存在すらも認知していない動物には、EMPを体外に放出する機能が体に備わっていない。
これが、人間の女性しか魔法を使うことができない大きな理由だ。
「私、生まれつきEMPを出せないんです。体の中にはあるらしいんですけどね……」
「なるほど〜」
一同納得したような表情を浮かべたが、ネオだけがその表情を変えた。
◇
「コンコンコンッ」
まるでリズムを奏でるように、ドアを叩く音がクロの小部屋に響く。
「入っていいわよ」
半ば反射的に反応するクロは、やっぱりと思いながら、ドアを開けて部屋に入ってくるネオの方を見る。
「夜遅くにゴメンね」
確かに、時計の針は、10時頃を指していたが、クロはさほど気にしてはないようだ。
「いつものことでしょ?それにネオなら、この時間は、私が本を読んでる時間だってわかってるだろうし」
「それもそっか」
「開き直られても困るわ」
「と、そんなことはどうでも良くて」
「どうでも良くてはないわよ」
「アルちゃんの話なんだけど……」
「アル」と聞いて、クロはドキッとする。
でも、ネオのことだから、「そういう話」ではないだろうと思うと、すぐに平常運転に切り替わった。
「これ見て」
ネオがクロに見せたタブレットには、「技能試験成績上位者提供動画」と書いてあった。
「ああ。あの子、次席だったわね。魔法が使えないはずなのにすごいわ」
「そう!そこなんだよクロ!」
急接近してきたネオに対してクロは、一瞬だけ頬を赤らめた。
「近すぎたか」と、ネオはちょっと離れる。
「クロの技能試験の順位は何だった?」
「確か3位だったはずよ」
「3位でも十分すごいけど、普通不利なはずな、魔法が使えないアルちゃんは次席。今となっては、同学年では並ぶものなし、と言われているあのクロ様よりも、高い順位なのだよ」
「クロ様って……でも、私が受けたのは中学入試よ?高校入試とはまた理由が違うのじゃない?」
「それもそうだけど……まあ、一回この動画を観てみくれれば、私の言ってることがわかるはず……」
ネオがタブレットの中心にある三角の形をしたボタンを押して、ようやく動画が始まる。
最初こそ淡々と動画を観ていたクロだったが、少しずつ顔色が変わってくる。
「……こ、これって……」
一括りに技能試験と言っても、試験には、色々な種目が用意されている。
今2人が観ているのは、模擬試験。
エリアの中にいる無数のデコイと戦うことになるのだが……
果たして、動画に映し出されたアルは、デコイと戦う、ではなく、まるで流れ作業のようにデコイを倒していた。
クロとネオが今日一日見てきたアルとは、まるで別人だ。
画面内のアルは、愛銃であるシールドことM&P Shieldと、自分の身体を振り回しながら、デコイを一体、また一体と、必要以上に銃弾を打ち込み倒していく。
そして、飛び上がった、と思った瞬間、デコイに降り注ぐ銃弾の雨。どこから出してきたのか、アルはサブマシンガンを持っている。そして未だにもう片方の手には愛銃を持っている。少女でもうまく使えるように、反動、リコイルが抑えられているのか……しかし威力を見る限り、銃自体は実銃なのか……
「ま、まあ?頼もしいよね」
「ええ、とても」
ネオは、目を輝かせるクロを見て、多分言いたかったこと伝わってないだろうな……と思った。
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