助手席の異世界転生
沙月Q
いつまでも君の助手席で……
人間関係は転生だ。
付き合いが長いほど、その人にとって相手が何者かは転生のように変わっていく。
彼女にとって私は最初、弟だった。
まだ運転免許を取れない私を、二つ年上の彼女は自慢の愛車であちこち連れて行ってくれた。
僕のこと、どう思ってる?
そんな質問に彼女は笑って答えた。
「君は弟だよ」
その後、学校を卒業した僕は彼女の部下に転生。
彼女の運転する営業車の助手席で、彼女につりあう男になるべく努力した。
なんとか彼女の恋人に転生できたのは三年後。
運転免許も取ったが、彼女は僕の運転する車に乗ろうとはしなかった。
デートはいつも彼女の愛車。
彼女の夫に転生しても、運転は彼女の仕事だった。
そして時は流れ……
やっぱり私は彼女の助手席で、施設から週一帰宅の道中にあった。
最近の僕は、自分の意識や記憶がどんどんぼやけてきている。
そして、頻繁に転生することが多くなった。
「ボク、もうすぐ着くから起きて」
彼女の言葉に僕ははっきり目を覚ます。
「ごめん、また君のことママって呼んだ?」
「あら、今日は転生からもどるの早かったわね」
彼女の横顔は年を経ても美しかった。
そして僕は時々、彼女の息子に転生していた。
僕は目をつぶって、彼女にささやきかけた。
「ねえ、もし本当に転生したら異世界でもまた会えるかな……」
「どうかしらね」
僕は目をつぶったまま、今度は彼女の方が別の存在に転生するのを見た。
翼を広げた天使。
「私も一緒に異世界まで行けば、もう転生の必要もないでしょ?」
彼女は僕の手を取ると、そのままフロントグラスを通り抜けて空高く舞い上がった。
どちらが何回転生してもいい。
僕たちが一緒にいられるなら……
完
助手席の異世界転生 沙月Q @Satsuki_Q
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