第13話 おばあちゃん(悪霊)の囁き

 僕は自分が興味をひかれたことをとことん追求するタイプの人間だ。だから楽しいと思ったゲームはサブクエストまでとことんやり込むし、国語のテストでちょろっと出てきた小説も面白いと思ったらテスト後に購入してきっちりと読み込む。


 一度やると決めたらやり遂げないと気が済まない。だからこそ、一度幸せにしてみせると思ったら絶対に幸せにしてみせる。


 だからこそ勘違いはしたくない。


「月が綺麗だね」


 そう………勘違いはするべきではないのだ………この発言に他意はない。夏目漱石なんて一切合切関係ない、ただドラム缶の中で見る一味違った夜景と月に心を惹かれているだけなのだ。


「……そうだな」


「今夜は満月だったんだ。兎が私たちを餅つきながら見守ってるよ」


 ほらみろ、何にも妙なところはない。


『光起』


 はっ、この声は……悪霊!!!!


『だれが悪霊よ。貴方のおばあちゃんです』


 悪霊さん、最近僕たまに幻聴が聞こえるんです。


『それってもしかしてあたしの声?おばあちゃんの愛しい声のこと?』


 で?今度は何しに来たん?僕は今リラックスタイムなんだよ。


『女の子にドギマギしている分際で?よく言うわねぇ……でも気持ちわかるわよ。あたしも若い頃はそうだったわ。肌面積の多い異性が近くにいるだけで子宮の奥がうずうずしてて』


 ドギマギなんかしてないっての。ただ月が綺麗なんてセリフ言われたからどうしよっかなって思っただけ。


『あたしはあんたの心の中も見えるのよ。そんな言い訳きかないわ。

ま、とにもかくにもグランマアドバイスを送りましょう』


 なんだよグランマアドバイスって。


『取り合えず付き合ってみなさい。あたしもおじいちゃんとはそうして結婚までしたんだから。ちなみにあんたのお母さんが出来たことが結婚の決め手だったわ』


 いらん情報をくれないでよ。


『あの夜はとっても刺激的だったわ……あの夜の月は死んだ今でも忘れられない……ラベンダーのアロマが漂う高級ホテルのベッドで熱く交わりあい』


 黙って、本当に死ぬほど黙って。自分の親の出生秘話なんて聞きたくないから。って言うかマジでなんなのこれ?僕の幻聴だよね、それであってるんだよね。マジで悪霊なの???


『さぁ?まぁとりあえず付き合ってみなさいよ。光起も吾妻川ちゃんのこと結構いいように思ってるんでしょ』


 そりゃそうだけどさぁ……彼女にするってことは結婚して生涯を共にするのと同じだし。


『今時堅物の風紀委員長でもそんなこと考えてないわよ。合わなきゃ別れればいいのよ。もうちっと軽く考えなさい。

 ま、子供でもできたら話は別だけどねぇぇ。あ、初めては生でした方がいいわよ。私もそうだったわ』


 何なの?ひ孫が欲しいの?


『めっさ欲しい。愛でまくりたい』


 死んでるくせに?


『それは言わないでよ………ぴえん。泣いちゃうぞ』


 もう面倒くさいから泣いてよ……ったくもう。


 頭を大きく振って無理やり幻聴をぶっ飛ばす。 


「急にヘドバンなんてし……どしたん?話きこか?」


「なんでもないよ………」


「もしかして私と夜のマリアージュに惚れちゃった?」


「確かに幻想的なくらいに綺麗だけど……惚れちゃいないよ」


「そりゃ残念」


 英玲奈の頬が少しだけ赤らんだような気がするが風呂のせいだろう。


「ま、とにもかくにも光起くん。明日からも彼氏としてよろしくね」


「ああ、よろしく」


 彼女か……


『今よ、おしたおせぇぇぇ!!!!!彼氏じゃなくて夫にしてって言いながら押したおせぇぇ!!!!ドラム缶風呂だけど押したおせぇぇぇ!!!!!!!!』


 僕に彼女……憧れはするけれど………まだ早いよな。


『そんでもってひ孫をつくれぇぇ。

 ひ孫作れひ孫作れひ孫作れひ孫作れひ孫作れひ孫作れ』


 取り合えず今度神社にでも行ってお祓いすることは決意した。

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恋愛初心者の私が二目惚れした彼をヤンデレ美少女から助けたらカップル(仮)になれました。いつか私の全部を知ってもらうつもりです 曇りの夜空 @11037noa

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