第12話 お風呂の月は綺麗だね
月詠ちゃんに光起くんのアプローチを許可した理由の半分はスッキリしたいからだった。
仮とはいえカップルっぷりを見せつけて恋心を折らせるというのは実際にしてみようとしたその瞬間、私の中に大きな罪悪感を覚えた。それは私の人生で最も大きいもので、目まいを覚えるほどだった。
これで私の中では月詠ちゃん相手には取り合えずケジメをつけた……と言うわけで。
「光起くん、一緒にお風呂入ろっ」
「何言ってんだお前………」
私は私の魅力でメロメロにさせる努力をしよう。何故なら私は光起くんのことが好きだから。
皆でカレーを食べた後家に帰った月詠ちゃんを見送った後ドラム缶風呂を沸かした。アウトドアって感じがしてなんとも解放感がある。
「結構大きなドラム缶だから二人でも入れるよ」
「そういうことじゃなくって……僕たちは仮のカップルだぞ。本当のカップルでも高校生の身分で一緒に風呂だなんて滅多なことじゃしないだろうになおさらそんな真似できるわけないじゃんか」
「まぁまぁ、小さいことは気にしないで」
「でっかいことだと思うんだけど………いい?僕は男、君は女、そこのところをわきまえて「私のおっぱいみたくないの?」いや、だから「イエスかノーで答えて」………イエス」
よかった。性欲ゼロのお坊さんだったらどうしようかって思ってたんだよね。私の胸に感じるこの視線は確かに性欲のたまものだ。
「じゃ、私と一緒にお風呂に入ることに問題なくない?」
「いや、だから色々と………なぁ」
「煮え切らないなぁ……まぁいいや、こんなこともあろうかと」
マジシャンのように服を脱ぎ捨てると予め着ていた水着が月光の下に露わになった。セパレートタイプの青色水着だ。露出度はそこそこ高めにしてある。
「ちゃんと用意しておりました。光起くんの分も用意してあるから私に見せつけたいわけじゃないならこれ着て一緒に入ろ」
「………そこまでしてんのか」
「色んなパターンを考えてたんだよ」
応助に水着を用意しておくように言われてたけど本当に必要になるとは思わなかったな。
「さぁさぁ、後は光起くんのここと一つだけだよ。滅多にない機会なんだから一緒に楽しもう」
「……そうだな、せっかくだし入るか」
「よしっ!!」
そうして水着に着替えた光起くんと一緒にドラム缶風呂に向かった……
「うわぁお」
そこで全裸の虹雪さんに出会った。上品な様子で白い身体を拭いている。なんだか月の光も相まって幻想的な風景だ……しかしそれより前に一つの大いなる思考が脳みそを支配する。
「デッカ」
凄くデッカイ……形もいいし、見ているだけで触り心地がいいと分かるくらいに見事なものだ。男の子の気持ちがわかる気がする……って言うか分かる。たわんたわんだ。
「お前見ないと思ったらこんなところにいたのか」
「はい、月夜をお風呂で堪能しておりました。愉楽の時間でしたよ……それにしてもお二人ともその格好はもしかして一緒に入るおつもりですか?」
「ああ、たまにはそういうのもいいかなって思ってな」
「いいですねぇ、ラブラブです。健全さと不純さが丁度いい具合に混ざってとても微笑ましいです」
男の子に裸を見られているというのに少しも照れがない……そして
ギロリ
光起くんの方も少しも反応がない………この二人ってマジで仲が良いなんてレベルじゃないんだ……お互い裸を見たり、見られたりしても気にしないって尋常じゃないにもほどがあるよ………
ま、私的には虹雪さんに光起くんを取られる心配がないから好都合でしかないけど!!
「私もご一緒したいところですが流石に三人はぎゅうぎゅうになりすぎてしまいますし、それにお二人の間に入るのは憚られますね」
「配慮してもらってあんがとよ」
「ふふふ、それでは私は一足先に床についてますのでお若い二人でごゆっくり」
なんとも嫋やかな笑みだ。私が男の子だったらときめいていたに違いない。
「お前の方が誕生日遅いだろうが」
「そこは触れないお約束です」
そんな会話をしながら生着衣をし終わった虹雪さんは去っていった。去り際に私の耳元に『こーくんのことよろしくお願いいたします』と言う言葉を残して。
「さ、それじゃあ入ろうか」
「ああ」
お湯の温度と肌に当たる光起くんの肌の温度が幸福な暖かさをもたらしてくれる。
「気持ちいいぃぃこんなに気持ちいいお風呂は初めてかも」
「ははっ、解放感があるか?」
「それもあるけど光起くんがいるからかな」
「………そりゃどうも」
空で大きく構えている月が静寂なスポットライトを私たちに浴びせた。なんだかロマンチックな気分になる。
「ねぇ私たちのカップルってまだ続ける?」
「そうだな、すぐに別れるって言うのもなんだし、ほとぼりが冷めるまでは偽装カップルを続けようか」
「そっか、分かったよ」
………アプローチかぁ…………
分かんない……しまったなぁ、深いところまで気にしていなかった。
水着を外す?いや、それは単なる痴女………いや、視覚情報だしそこまで気にする
ことないのかな?光起くんもみたいって言ってたし。でも流石に性急か?
「あのさ光起くん」
「なに?」
何か気の利いた言葉を……えーと、えーと。
月光が燦然と輝いていた。
「月が綺麗だね」
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