第9話 撫でまわし百裂拳

 甘芽には昔から困った癖がある。僕たち幼馴染以外には教えていない秘密の癖が。お泊り会はその癖を満たすために定期的に開催されているものなのである。


「つきましたよ二人とも」


 僕たちは少しだけ街から外れたところにある人気のない場所まで足を運んでいた。ここには僕たち幼馴染が作った秘密基地があるのだ。


「ほぉーー、これ光起くん達が作ったの?」


「うん。僕と甘芽と…あと数人の仲良しグループで小学生の頃にね。つっても元からあったプレハブ小屋を補修してちょちょっとアレンジした程度だけど」


「懐かしいですね。秘密基地を作りたい男の子心が爆発したこーくん達が私たちを巻き込んだことが目を閉じれば今でも思い出せます」


「思い出すのはいつでもできるだろ、さっさとやること済ませよう」


「そうですね」


「?」


 英玲奈が分かりやすく首をかしげた。


「やることって何?ここで談笑して一緒にお泊りするだけじゃないの?」


「いえ、私達にはここでどうしてもやらなければならないことがあるんです……」


「やらなければならないってレベルじゃないけれど……まぁ甘芽の癖を満たすためのちょっとした行為だよ」


「彼女さんの前でするのは少々恥ずかしいですが……まぁとりあえずやりましょう」


 嫋やかな笑みと共に甘芽が椅子に腰かけて膝の上を軽く払う、その膝の上に僕の頭をのせた。


「なっ!!!!!!!!???????????」


「よしよしよししよしよしよしよしよしよししよしよしよし」


 そして慈愛を存分に沁み込ませた手のひらで僕の頭を撫でる。それから少し時間を空けて首、胴、腰など体のありとあらゆる箇所を撫でまわす。


「いやいやいや、何やってんの?」


「撫でまわし百裂拳」


「そんな必殺技みたいな名前付いてる行為なの!!??

 っていうかマジで何やってんの??こんなの……こんなの………」


 明後日の方を向き、頬を赤らめながら呟いた。


「エッチだよ」


 なんとも艶やかな声である。危なかった、もし甘芽ではなく英玲奈の膝の上にいたなら心が淫靡に揺れていたかもしれない……うん、マジで危なかった。


 しかしまぁ、出会って二日目で下着姿を披露したのに意外と初心なんだね。もしかして下着と水着が同じだと思ってるタイプかな。だとすれば納得、うちの妹も同じだし。


「お気に障ったなら申し訳ございません。ただ、これは私の甘やかしたい欲、撫でまわしたい欲を満たすための行為にすぎません。

 以前も言いましたがこーくんには全くもって全然毛ほども男性としての魅力を感じていないのでご安心ください。それにこーくんも私に対してそういう気持ちはありませんよね」


「ああ、甘芽に対してそういうのを感じるフェーズは遥か昔に通り越したよ」


 これは本当だ。昔から色んな意味で密接にかかわってきたせいなのか僕は甘芽に対して性欲を全く感じない。以前風呂場で鉢合わせた時に全く動じなかったのは自分のことながら驚いた。


 Hカップあるらしいのに…性欲を感じられないのがもったいないとまで思ってしまうナイスな身体なのに。まぁこいつとそういう仲になるとか想像するだけで悍ましいので仕方がない。


「本当に?」


「本当ですよ」


 頬をぷくりと膨らませて分かりやすく不満の意を表すのはなんだか可愛らしい。それと同時に偽装カップルとはいえ少しばかりの嫉妬心くらいは抱いてくれる程度には好意を持たれているであろうということが嬉しい。


「…………ねぇ、その欲って光起くんじゃないと満たせないの?」


「いえ、間違いなくこーくんは別格の触り心地ですが別段誰じゃなきゃ駄目と言うことはありません。ただこーくんとはお互いに頼り合おうという誓いを立てているのでこういう人に少々言いにくいことをしてもらってるんです」


「じゃあさ、私でいいじゃん」


 うん?


「男の子の身体じゃ感じられないものを教えてあげるよ!!!」


 なんでちょっとエッチな言い方するの?


「経験だって豊富な方がいいでしょ。男の子だけじゃなくて女の子の身体も体験したほうが欲が満たせると思うし……それにさ」


 すると勢いよく服をたくし上げた。そこから美しいと評されそうなほど均整の取れたスタイルと腹筋が顔をのぞかせている。


「私の筋肉凄いんだから……他の人じゃ絶対に味わえない満足感を提供できるよ!!」


 しかしまぁ改めて見るとスゲーな……見惚れるよ……あれほどの怪力を秘めた身体……いつかジックリ観察してみたいし、がっつり触りたいけれど……流石に無理だろうなぁ、女の子だもん。こういう時は女に生まれたかったと思うよ。


「………そこまでおっしゃるならお言葉に甘えます。こーくん、ありがとうございました」


「はいよっ」


 僕が上半身を起こして膝を開けるとそこにゆっくりと英玲奈の頭が収まった。甘芽の膝にジャストフィットしたのか僕よりも板についているような気がする。


「それでは失礼いたします」


「どうぞ」


 そして撫でまわした。しばらくすると二人の瞳が大きく見開く。


「………この感触は………」


「驚きましたね……この触り心地は」


「「最高」です!!!!!!」


 二人の身体から幸福オーラが溢れて出ている……一人では出せないような大量のオーラが見えるのだ……二人分と言うよりも二人になったことでさらに倍加しているようだ。


「気持ちぃぃぃ………ブラッシングされてるワンちゃんとかこういう気持ちだったのかなぁ………ふにゃぁぁ」


 どっちかって言うと猫だな。


「新感覚です……やわもちなのにがっしりしていて……病みつきになりそうです!!!!一晩中でもできますよ!!!!」


「いくらでも付き合うよ。

 ああ……この快楽に溶けてしまいたいよ」


 二人の美少女のくんずほぐれつを見た僕は、もう自分の役割は無くなったなと直感した。暇になったことだしなんか晩飯でも作ろうかとバッグに向かった、まさにその時。


 グラァッ


「なんだっ?」


 世界が揺れた……地震か??


 いや違う……音が聞こえた………何か重いものが落ちる音が。


「噓でしょ」


 窓の外から景色を見てみた……もう驚きさえ出てこないほどの光景が目に映る。


「…………監禁されとる」


 秘密基地ごと何か大きな檻に囚われているようだった。上から覆うように檻を落とされたのだろう………いや、冗談よしてくれよ。


「おい、二人ともちょっといいか?」


「今忙しいので後にしていただけますか?」


「ふにゃにゃにゃぁーん」


「駄目だこりゃ」


 この異常事態だというのになんと呑気な奴らだろう………まぁいいか、ことこうなったら今更何ができるわけでもない……いや、英玲奈の身体能力ならあるいは。


「にゃにゃにゃーーーーん♡♡♡」


 無理だな。骨抜きにされてる。ぐでんぐでんのスライムみたいになっとる。


「はぁ………まさかここまでされるとはなぁ」


 一応秘密基地から出て周りの確認をしたが360度完全に檻で囲われている。まるで動物園の動物だ……違う点は檻をきちんと立たせるためなの支え棒のようなものがあることくらいだ。あとは檻をここまで運んできたであろう重機が目に入った。


「………こりゃもう僕にはどうしようもないな………あっちからのアクションを待つか」


 取り合えずお湯でも沸かしとくか、暇だし。

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