第6話 ヤンデレさんだけでなく幻獣だっているんです

 私には芸術的センスが皆無だ。


 そもそも芸術と言うものが一切分からない。なんかいい音楽だな、程度なら何とかわかるが、それ以上のことは分からない。これが絵画とか彫刻の様な形のあるものならもっと分からないのだ。ミロのヴィーナスとかモナリザとかが巷ではもてはやされているが私からすれば


「なんか知らんが綺麗」


 としか思わない。女優とかを見てこういう顔が綺麗なんだ、整っているんだ、という概念は理解しているつもりだけれどそれを納得できたことがない。へのへのもへじが明朝体でも筆記体でもどれも等しくへのへのもへじでしかないのだ。


 私は自分が綺麗なのか気にしたことがない、清潔感は気を付けているがあくまで身だしなみのレベルだ。ファッションに手を伸ばしたことはない。私服を選ぶのに注視している点はサイズと値段のみである。


 だがしかし、好きな人ができて仮とはいえ恋人にもなった今多少は気にするべきだろう。


 その為に一つハッキリとさせておかなければならないことがある。


「と言うわけで応助おうすけ、私って綺麗?」


「取り合えず俺に平静になる時間をよこせ」


 応助こと湯緑ゆみどり応助おうすけは私の従兄であり、現在我が家に身を寄せている24歳のニートである。


 ちなみにお父さんが酔っぱらった時に零していたが私との血縁関係はないらしい。私と全然似ていないから納得である。


「3、2………「もうちょっと待ってくれ、急かすな!!!」」


「綺麗かどうかを教えてよ、私的には綺麗な顔だし、男受けしそうなスタイルだと思ってるんだけど自己判断じゃ自信なくってさ」


「なんでだよ……てめーの目を信じろよ」


「応助はテニス経験ないコーチにサーブの指導されたとしたら、本当に正しいのか疑問に思ったりしない?」


「………なるほど」


「この恋は絶対に実らせたいんだよね。なんて言ったってこれ逃したら二度と人を好きになれる気しないし」


「んなことないだろ。恋はいつでもできるぞ」


「そういうのは恋愛できる人間の戯言だよ。出来る人間に出来ない人間の気持ちなんて分からないもんだよ」


「はいはい……とりあえず従妹にこんなこと言うのはあれだが、お前はかなり面が良いと思ってる。あくまで世間一般的に見てな」


 良かった、世間一般の感覚にちゃんとあってた……ふぅ、一安心。


「にしてもまさかお前が誰かを好きになるなんてな、明日は隕石がふってくんじゃねーか」


「その時は私が隕石受け止めてあげるよ」


「隕石なめすぎだろ」


「メテオガールの異名を得てみせる」


「得てどうすんだよ」


「なんか嬉しい」


「得がない」


「ま、それはともかくとして綺麗系を極めるとしようか。とりあえず綺麗と言えば青色だよね。よし、私のイメージカラ―は青にしよう。まずは髪を青く染めようか」


「偏見がスゲーな……って言うかそれは綺麗系って言うより清楚系のイメージカラーだろ」


「そうかな?じゃあ王道の黒髪ロングにする方がいい?」


「はぁ……まったくもって分かってない奴だな……って言うかまずはその塞島とかいう奴の好みを調べろよ。逆方向に走ってもゴールにはたどり着かないんだぞ」


「なるほど…じゃあとりあえず私の見た目が好みかどうか光起くんに聞いてみよっと」


 私がスマホを取り出そうとするとその手を抑えられた。


「待て待て待て、馬鹿正直に聞こうとする女がいるか。って言うかまだお前の気持ちも伝えてないだろ。そんなこと聞いたら告白してるようなもんだぞお前」


「マジで?」


「マジで」


「それは困るなぁ。告白は二人で大きな障害をクリアした時にロマンチックにするって決めてるんだよ。それまではしたくない」


「漫画の見過ぎなくせにどうして告白まがいなことを告白まがいだと気づけないんだお前」


 応助が少しため息をついた。


「取り合えずしばらくの間はそいつと仲を深めろよ……高校生のガキなんて基本仲の良い奴に勝手に恋愛感情わかせるもんだ」


「そういうもんなの?」


「そういうもんだ。社会経験のないガキなんて近場にある気の置けない奴の方に惹かれるもんなんだよ。高嶺の花に手を伸ばすより、近場の花壇の方がお手軽に恋を味わえるからな」


 社会人経験のない男に言われると説得力が違うと感じるのは私だけかな?


「ま、取り合えず光起くんと仲良くするのは私も望むところだから明日からはその方面で進めていくよ」


「ま、お前が惚れるくらいだから一癖も二癖もある野郎だとは思うがせいぜい頑張れよ」


「OK。愛は自分の力で手に入れるからいいもんだしね」


 多分私はとてつもなくいい笑みを浮かべていたのではないだろうか。光起くんとの未来を考えるだけでドキドキして仕方ない。


「後できることがあるとすれば外堀を埋めるのがいいんじゃねーかな」


「外堀?」


「ああ、そいつの友達とか兄妹とか……そうそう、幼馴染いるんだろ、そいつから攻めていくってのはどうだ?幼馴染なら色々知ってそうだし」


「幼馴染ねぇ……」


「神妙な顔してどうした?」


「だってさぁ。幼馴染と言えば恋愛ものにおいて絶対的な強者ポジだよ……最近は結ばれることも少なくなったけど、それでも圧倒的なアドバンテージを持ってる」


「はんっ、お前は漫画の世界に移住したのか?夢見すぎなんだよ。

 現実はそんなこと全然ないから安心しろ。そりゃ幼馴染自体は普通にいるだろうよ、大抵の奴は保育園や幼稚園で友達作るもんだからな。だけど高校生にもなったら異性の幼馴染となんて逆にろくすっぽ付き合ったりしねぇから。昔のハナタレ姿を知ってる分逆に壁を感じちゃうもんだから。

 朝起こしてくれたり、昼に弁当作ってくれるような幼馴染はこの世に存在しねーから。フェニックスやペガサスと同じだから、人の想像力が生んだ存在しない幻獣だから」


「本当?」


「俺を信じろ」


「……………」


「その半信半疑の目を止めろ」


 二信八疑くらいだよ。


「まぁいっか、取り合えず明日はまだ名前も顔も知らない幼馴染さんにアタックすることに決定!!」


 よし、私の彼女(仮)生活を充実させるぞぉ!!!


~~~~~~~~~~~~~

 

「はい、こーくん、あーんです」


「あーん」


 翌日、ウキウキで文芸部室に向かうと見知らぬ巨乳がさも当然と言った様子で光起くんにお弁当をあーんしていた。


「美味しい?今日はからあげが上手に出来たんですよ」


「うん、いつも通り美味い」


 もしかしてお弁当作ってきた????しかも常習犯? 


「そうそう、今日現国の教科書忘れたんだけど貸してくれない?」


「もうっ仕方ないですね。今朝も忘れ物しないようにって言ったでしょう」


「だってあんときは眠かったんだよ。んでボケーッてなってて」


「言い訳は結構です。もう、気を付けてくださいよ」


「悪い」


「よしよし、まぁ人は誰しも忘れることはありますもんね」


 もしかして朝起こしてくれた?


「えっと………その………ちょっといいかな?」


「あっ、英玲奈」


「ん?お友達ですか?」


 巨乳の赤髪ロングはにこやかに微笑んだ。


「どうも初めまして、文芸部唯一の部員にしてこーくんの幼馴染の虹雪にじゆき甘芽あまめです。よろしくお願いします」


 応助よ………幻獣いるじゃんかぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!

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