第4話 恋をできたのは幸せです
小学生のころ、いなかっぺ大将に憧れた時があった。それはほとんど衝動的なものだ。
「おっ母、おっ母!!私は愛する人を壊してしまうかもしれないっぺ」
「真剣な内容なのに急に訛りが酷くなったせいで戸惑いしか浮かんでこないわ」
「わっちは「ついさっきまで私って言ってたわよね。なんなの?キャラ作りしてるの?」おっ母やおっ父、近所のプロレスラーのボマー爆弾魔さんよりも強いよね「そんな頭痛が痛いみたいな名前のプロレスラーが近所に住んでるの?初耳なんだけど」こんな私が将来愛する人を抱きしめることができるのか不安になったの」
「ああ、力加減ができなくて困ってるんじゃなかったのね」
「そのトレーニングなら保育園の頃に完全にコントロールできたべ。でも将来誰かを好きになった時、我を忘れてしまうかもしれないと思うと……急に怖くなったっぺ」
「そうね……確かにあんたはそういうところあるわよね……むぅ……難しいわね」
「恋人のハグでケガしたときに使える保険とか知らないべ?」
「何故保険に入れば解決すると思った。そしてそんなピンポイント且つレア極まりない保険は多分ない」
「ケガする度に治せばセーフかなって思ったべ」
「娘にこんなこと言うのはいたたまれないけど、その思考回路は狂ってるわよ」
「となるとやはり、如何なる時でも巨峰のごとく泰然と居続ける不動の精神を培うしかないべか」
「急に使ってるワードのレベルが上がったらお母さん困惑しちゃうんだけど」
「と言うか、私誰かのことを好きになれるかな?」
「田舎言葉はどこにいった」
「面倒くさくなった」
「なんて子でしょう」
「貴女が育てた子でしょう」
「勝手に育ったのよ」
「それほどでも」
「褒めてないわ」
「で?お母さんはお父さんのどこに惹かれたの?」
「政略結婚だからそういうのはないわね。今でも全く惹かれてないわ」
「そこは嘘でもなんか言うもんじゃない?」
「だって本当のことだもの。と言うか私、人を好きになったことないし。娘である貴女以外に愛情感じたことないし。恋愛なんて私にとってはUMAと同じカテゴリーにあるわ」
「じゃあカッコいいとか可愛いと思ったことは?」
お母さんは鼻で笑った。
「容姿なんて個人を識別するためのものでしかないからカッコいいだの可愛いだのといった概念はそもそもないわ。だいたい顔やスタイルなんて内面の付属物でしょ、そんなもんに惹かれること自体ナンセンスよ」
「なんだ、私ってお母さん似なんだね」
「まぁそうでしょうね……とはいえあんたはまだ若い、もしかしたら人を好きになれるかもしれないわ……だから、もし万が一、京が一、天地がひっくり返った後にもう一度回ったレベルの奇跡が起こり誰かを好きになれたとしたら」
お母さんはニッコリと笑った。
「いいわね」
「ポテチより薄っぺらい言葉」
「だって経験ないからいい感じの言葉思いつかなかったもの」
「そこを捻りだすのが親ってもんでしょ」
「あんたは親に高い理想を持ちすぎているわね。しょせんは誰もができている恋もできない存在よ。恋バナに混ざれず、修学旅行でフラグが立ってもそれに気づかず、青春の一番美味しい部分を享受できなかったどころか見ることさえ叶わなかった女なのよ」
「言ってて悲しくならない?」
「なってる………」
「ドンマイ」
お母さんはそれなりに悲しそうな笑みを浮かべていた。まぁ数分後には元気にポテチ食べていたけど。
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お母さん、私は今人を好きになれました……それも私の秘密であるアホみたいに強いことも共有できたのです……
ああお母さん、今私は貴女をとても憐れんでいます……こんな幸せな気持ちを感じたことがないなんて……トキメキ最強、ナンバーワン。
私は今、お母さんを超えた実感があった。
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