第2話 おっぱいを見せるくらいなら恥ずかしくないよ

 翌日クラスで見た塞島くんは男の子の姿をしている以外昨日と何にも変わらなかった。


「あっ、おはよう」

「おはよう塞島くん」


 この人は何者なんだろう……まぁ普通じゃない。


 それにそんな人にときめいてる私も普通じゃない。ああんっ、恋愛初心者だからってドキドキしすぎでしょ。

 

 とはいえ女装姿にだけときめく性癖じゃないと分かって一安心。


「おは、光起」


「ああ、今日も眠そうだな悠馬」


「仕方ないだろ、眠くなったタイミングで負けちまったよ。そうなったら勝つまで止めれないじゃん。負け犬のまま寝たくねーじゃん」


「まーたオンラインゲームか…いつ寝たん?」


「3時くらい……かな」


「負けまくったんだな。今日は早く寝ろよ」


「保証しかねる」


 普通だ……普通に友達と話しているどこにでもいる普通の男子高校生だ。


 昨日見たあれは私の幻覚だったのかな?いやでも……スマホの待ち受けには昨日帰る前に撮ったツーショット写真があるし、昨日借りた小説の『死恋しれん』もしっかり鞄に入ってるし。まぁ現実だったんだろうな。


 せっかく初恋出来たんだから現実じゃなかったら困るけど。 


~~~~~~~~~~~~~


 昼休み、転校生に物珍しさを覚えるクラスメイト達を適当にあしらった後に塞島くんの肩を叩いた。


「塞島くん……ちょっと密談いい?」


「いいよ」


 ザワァッ


「密談だと……なんとエロチックな響きだ」


「馬鹿な、まだ出会って二日だろう……密談なんてそんなふしだらな」


「もしかして小さいころに生き別れた兄妹だったりするのかしら?だとすれば密談する理由も分かるわ」


「いや、幼馴染の方が萌えるな」


「いやいや、前世が夫婦って方が萌えるでしょう」


 なんか湧きだっているクラスメイトを無視して塞島くんと共に教室を出た。


「あのさ、どこか二人きりになれる場所とかある?」


「ん?そんな便利な場所は……ああ、あったわ。でもいいん?」


「何が?」


「さっき僕を呼ぶときも好奇の目線とかあったし。出会って二日目の男子と二人きりになるとか女の子的にいいん?」


「平気平気、そういうの気にしないタイプだから」


「ならいいけど」


 塞島くんは『文芸部』とプレートが掲げられた部室に入っていった。私もそれに続く。


「ここなら誰も来ないと思うよ」


「塞島くん、文芸部なの?」


「いやバリバリの帰宅部だよ。ここは僕の幼馴染一人だけが部員だから滅多に人が来ないんだ。

 で?密談って何のことかな?」


「昨日のことどうしても気になっちゃってさ………ちゃんと聞けなかったけど改めて言うね。なんで女装してたの?」


「そうだね取り合えず」


 塞島くんは鞄から弁当箱を取り出した。私もそれに呼応するようにお弁当を出す。


「昼休みの時間は決まってるから食べながら話そうや」


「元よりそのつもりだったよ。

 おっ、彩鮮やかだね。良かったら私のエビフライとそのコロッケ交換しない?」


「いいの?」


「私の心眼によればそのコロッケはカニクリームコロッケ……好物なんだよ」


「お目が高い、そんな君にならこのカニクリームコロッケも食べられて嬉しいだろう」


 交換した後にふと塞島くんが飲んでいる水筒に興味が移った。


「……この匂い……もしかしてミルクティーが入ってる?」


「驚いた、匂いで分かったの?」


「まぁお父さんたちからは五感の申し子と呼ばれているくらいだからね。当然嗅覚も発達しております。

 小さいころは警察犬になるのが夢だったこともあるくらいなんだよ」


「へー、そいつは凄い。僕は鼻があんまりよくないから羨ましいわ。

 よかったら飲む?」


「その言葉を待っていたよ。

 ほいほい、注いで注いで」


「あいよ」


 水筒から外したコップの部分に紅茶がトプトプと注がれていく。徐々に満たされている様がなんとも美しい…満たされるのを見るのって言うのは心まで満ちてくるのだから不思議だ。


「うむ、くるしゅうない」


「急に貴族」


 私はグイっと紅茶を喉に通した。喉越しスッキリなのに濃厚、甘くてインパクトのある液体が脳髄にドスンとやってきている。まさに甘露だね。


 その時ふと気になることができた。本当に些細でどうでもいいことだが好奇心が疼く。


「……ねぇ塞島くんちょっといい?」


「何?本題?」


「いや、別件。今私って塞島くんが飲んだ紅茶を飲んだよね。これって間接キスに入るのかな?」


「入らないんじゃない、僕の唇が当たったところを飲んだわけじゃないし」


「でもさっきラッパで飲んでたから……水筒でもラッパ飲みって言うのか知らないけど、とにかく飲んでたじゃん。つまり唾液は入っているわけで」


「唾液はあんまり関係なくないかな?病気の感染経路ならともかくとしてキスって唇で接触してんか否かって話でしょ。唇が間接的に接触するから間接キスなわけで」


「まぁ……そっか。ならいいか」


 いきなり間接キスはちょっとハードル高いもんね。


「なになに?そういうの気にするお年頃?」


「うん、そういうお年頃……って言うか出会って二日目で話す話題のカロリーじゃないね」


「確かに……それじゃあさっさと本題に入ろうか

 女装の件だけどどうしてあんなことしたかって言われたら結構とある人のプライベートの話に浸食しちゃうからあんまり言いたくないんだよね」


「その人から秘密にしてって言われたの?」


「言われてないけど、常識的なもんとしてあんまり話したくないなぁってこと」


「私口堅いよ。輸釜中のダイヤモンドと言われたほどの口の堅さを誇ってるんだから」


「でもなぁ、まだ出会って二日目だし、そんなに信頼関係ないしな」


 なるほどもっともだ。私はとっくに塞島くんのことが好きになって裸を見られても顔から火が出て堪らないであろうこと以外は問題ないくらいの好感度を持っているけれどあっちからすればまだ単なる転校生でしかない。


 よし、じゃあこうしよう。


 私は上の服を脱いで上半身をブラだけにした。幸い今日のはフリルのついた可愛いものだ。私のボディはいつでも磨き上げているし、見た目に多分問題はない。


「????」


「ちょっと待ってね」


「ああうん、よく分かんないけどどうぞ。いや、どうぞって言っちゃ駄目なのか?男女の関係的に……」


 塞島くんはもごもごと言いながら私の方をチラリと見てくる。そんな彼を横目に心の中でにやついた私は今の自分の身体をピースしながら写真に収めて、昨日交換した塞島くんの連絡先に写メを送った。


「私が口軽女だと判明するようなことがあったら、それを流出させていいよ」


「ワァオ……随分と思い切ったことすんな」


 別にさほど思い切ったつもりはないけれど……しょせん画像情報だし。おっぱい触らせるとかなら流石に恥ずかしいけど。見せるくらい恥ずかしくないよ。


「ま、それは担保ってことね。それがある限り私の口はダイヤモンドどころかロンズデーライトよりも固くなるよ」


 ちなみにロンズデーライトとはダイヤモンドよりも固い物質らしい。


「将来が不安になるな。……君、変わってるって言われない?」


「多分それはお互い様だと思うよ」


「なぜバレた」


「なぜバレないと思ったの?」


 少し居心地悪げに唇を動かす彼はなんとも可愛かった。


「参ったね」

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