第3話 剣の真実
「私の顔をじーっと見つめてどうしたの? 私の顔に何かついてる?」
女性は首を傾げながらそう言った。
不思議そうな表情をしている女性を見て、アイルは思っていることをそのまま尋ねることにした。
「あの、答えられなければ答えなくても構わないんですけど、あなたは魔女……ですか?」
「ええ、そうだけど、それがどうかした?」
「へあぁっ!?」
女性は意外にもあっさりと自身が魔女であるということを口にした。
もっと言葉を濁したりするものだと思っていたアイルはあまりの驚きで変な声を出してしまった。
そんなアイルを見ていた女性は口元を押さえながらふふっ、と笑った。
「変な声を出してどうしたの? そんなに私が魔女ってことにビックリしたの?」
「え、まあ、そうですね」
女性の反応をみていくうちにアイルは少し疑問に感じた。
本来であれば、魔女と人間は敵対関係にあると言われている。それにも関わらず、女性はアイルに対して一切の憎悪のような感情を見せていない。
それは、アイルも同じで、互いに一切の憎悪や恐怖感は抱いていない。そのことについては、アイル自身も不思議に感じていた。
(憎悪を向けてこないどころか家……ではないが、研究室にまで入れてくれた。つまり、俺を追手たちから助けてくれたことになる。なぜ魔女が人間である俺を……?)
考えれば考えるほどにアイルは目の前にいる女性の考えが分からなくなってしまった。
このままではいくら考えても
「もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「ええ、もちろんよ」
「どうして魔女であるあなたが人間である俺を助けてくれたんですか?」
アイルが尋ねると一瞬不思議そうな顔をしながら頭を抱えたがすぐにアイルに指を差して答える。
「それはね、君が人間じゃないから」
「え……???」
返答を聞いたアイルは頭上に大量の『?』を浮かべた。
これまでずっと人間として生きてきた自分に対して人間ではないと言ったのだ。アイルは混乱してしまった。
「あれ、もしかして自分のことを人間だと思ってた?」
「え、あ、はい……」
「やっぱりそういうことだったのね!」
「何がやっぱりなんですか?」
「いや、何で人間である自分を助けたんですか? って聞いてきたから、もしかしたら自分が人間だと勘違いしてるのかなって思ったの」
「ど、どうして俺が人間じゃないって思うんですか?」
混乱して頭がショートしてしまいそうだったが、アイルはギリギリ意識を保って、自分が人間ではないと思った理由を聞いた。
すると、女性はアイルがアルトリアで取った剣を指差す。
「それ、アルトリアで取ったやつでしょ?」
「そうですけど、この剣と俺が人間ではないと思った理由に何か関係があるんですか?」
「もちろん、一番あるよ。その剣を君が持っているのを見たから君が人間ではないと分かったからね」
「この剣は何なんですか?」
「それは、剣ではないの。ちょっと見てて」
「は、はい?」
女性はローブの中から杖を取り出し、アイルの持つ剣に触れる。
そして、何やら呪文のようなものを唱え始める。
「真の姿をここに現したまえ」
そう唱えた瞬間、俺の持っていた剣が光を放ち、一本の赤い杖へと姿を変えていったのだ。
「これはね、魔女の杖よ」
「どうして剣が杖に……」
「この剣、アルトリアではなんて言われてた?」
「勇者しか抜けない剣……」
「なるほどね。人間たちはこれを勇者しか抜けない剣として現代まで伝えてきたのね。はぁ……」
女性はアイルから剣のことを聞くと、溜め息をつきながら呆れた表情をしていた。
「本当は勇者の剣ではなく、魔女の杖であるのなら何故アルトリアに剣の姿をしたまま刺さっていたんですか?」
「本当のことは何も教えられてないんだね」
「はい、すみません」
「いや、いいのいいの! とりあえず立ったままじゃ疲れるでしょ? そこのソファに座って。私がちゃんと教えるから」
「わかりました。ありがとうございます」
アイルは言われた通り、部屋のソファに腰を下ろした。
「私も隣に失礼するわね」
「あ、はい」
アイルがソファに腰を下ろすと、女性は机の上の本を一冊だけ手に取ってからアイルの隣に座った。
本のあるページを開き、アイルに見せた。
そこには、一人の魔女が自身の杖を剣の姿に変化させてアルトリアの街中に刺す様子が描かれていた。
そのページを指差しながら女性は説明を始める。
「これはね、大体300年くらい前の出来事なんだけど、この時代、人間と魔女は戦争をしていたのよ。もちろん先に仕掛けてきたのは人間側なんだけどね」
「なるほど。やっぱり昔から人間と魔女は敵対関係だったんですね」
「そうね。それで、この戦争の決着をつけたのが、この自分の杖を剣の姿に変化させて街中に刺した偉大な魔女であるミリーゼ・フレアルージュ様なのよ」
「え……今、なんて……?」
「ん? ミリーゼ様がどうかした?」
アイルは戦争を終わらせた魔女の名前を聞いて、自分の耳を疑った。聞き間違えたのかと思った。
だって、ミリーゼ・フレアルージュという名は…………
「俺の母と同じ名前……です……」
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