第4話 ミキさん③

「…で?この茶番劇のからくりを教えてくれよ」


乱交?スワッピング?パーティの翌日、俺は泊めて貰った秋男の社員寮の側の喫茶店で、モーニングがてら秋男を尋問していた。


秋男「まあ…簡単に言えば新しいホストスタッフの実技試験?」


なんだ?斜め上の話が出てきたぞ?

ホストスタッフ?

実技試験?


「…何言ってるのか全く分からないぞ?」

秋男「…まあ待ってくれ。順に説明するから」


そう言った割には、秋男は珈琲にも手を付けないまま窓の外を見ている。


「?」

秋男「…一度しか言わないぞ。感謝している」

「…は?」

秋男「…」

「…何に?」

秋男「…妹の実乃里が今、ヨーロッパで成功しているのはお前の力が大きい」


こいつの6歳下の妹、秋山実乃里ちゃんは若手ナンバーワンのフルート奏者として、ウィーンで確固たる地位を築いている。

そんな実乃里ちゃんは、俺の元カノだった。


「…俺は突き放しただけだ。『待たない』って」

秋男「ところがお前の動向は俺が逐一あいつに伝えていてな」

「ぶ~~~っ!!」

秋男「伝えちゃったんだよな。お前が万一の受け皿になるためにフリーでいると」

「お前!」

秋男「…南ちゃんのストーカー事件も伝えた…まあお前が刺された話は刺激が強すぎると思ったのでボカシたが、えらく心配していたよ」

「…」

秋男「…実乃里は頑張った。お前のおかげだ」

「…だとして今回のパーティはなんだよ」

秋男「…たまには恋愛ってやつを忘れて…って言ったのはマジだよ。最近のお前の顔色、酷かったからな」

「まあ…それは…ほんとありがとさん」


秋男「まあそれはそれとして、需要と供給のバランスみたいな話があって」

「…は?」

秋男「お前、気に入られちゃったんだよな」


気に入った人って…あの人だよな…


「…ミキさんって…何ものなんだ…」


秋男「新宿を中心に、ハイソカップルに非日常の刺激をもたらす出張ホストスタッフ…そのオーナーでありヤクザもんの小林さん、その唯一無二のパートナーが…ミキさんだ」



秋男の語るところによると、オーナーとミキさんは子どものいない夫婦であると。


オーナーがED気味で、でもミキさんが他の男に抱かれているのを見ると興奮して復活するんだと。


オーナーはそれで通常の出演ホスト業務とは別にスワッピングパーティーを企画して、ミキさんはそんな夫のためにパーティーに参加するんだけと、あの美貌のミキさんじゃ参加者が殺到してメチャクチャにされかねない。

それを防ぎたいオーナーが、秘密裏に秋男に事態の収集を頼み込んできたのだと。


俺はまんまとそれを手伝わされ…挙げ句にミキさんに気に入られたと。


「…お前もヤバい橋渡ってるな…相変わらず」

秋男「あ…参加費の1⚪万円は返しておくね。今回はスタッフみたいなもんだから、利子付きだ」

「やるだけやって…20万かよ。凄いな」


秋男「そのうちミキさんから直々に、出張ホストスタッフの誘いが入る筈だ。どうするかは…三月…お前次第だけと…まあお前なら何とかなるだろ」

「…無責任な…」



それから数日後、確かにミキさんから連絡が入った。

それは、スワッピングパーティにもスタッフとして参加していた『昌子さん(28歳)』への、

出張ホストサービスの出動依頼だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る