第7話 事故と霊魂①
◆事故と霊魂
僕はゆっくりと後ずさった。これ以上彼女たちに接してはいけない。そう思ったのだ。
すると、二人は吹っ切ったように顔を上げ、「ミムラくん、逃げた罰よ。助けを求めなかった報いよ」と呪詛のように繰り返しながら、
「その代わり、あんたの体をちょうだい・・」と詰め寄って来た。
それはもはや顔と呼ぶものではなかった。目は落ち、口は裂け、手の先もドロリと溶けていた。
その瞬間、僕の心は子供に還った。
「うわああああっ!」
子供のような叫び声を上げ、車道に出るなり子供のように駆け出した。家までの道が無限に続くように思えた。
家のドアを開けても、その恐怖は続いていた。
「あなた、そんなに慌ててどうしたの?」
いつもと変わらない妻の顔に安堵したのはいいが、さっきの出来事を説明しようとすると息が上がり、声が上ずってしまう。
結局、池の近くに変な女の子がいた・・それくらいしか伝えることが出来なかった。
仮に顔が溶けだしたと言っても信じてくれないだろう。
「きっと幻でも見たのね」と笑って流されるだけだ。無理もない。あんな話を誰が信じるだろう。
妻は遅い夕飯の支度をしながら、
「そう言えば、あの池・・ずいぶん昔に子供が溺れて亡くなったそうね」と言った。
「ああ、それは知っている」
僕がそう言うと、妻はこう言った。
「あの女の子たち、可哀そうね。二人は仲が良かったそうよ」
「女の子が二人?」
僕が知っているのは子供ということだけだった。女の子だったのか。
「ええ、正確には、池の端で三人で遊んでいたらしいわ。その時、助かった男の子は・・」
妻がそう言いかけた時、
「生き残った男の子って・・つまり、女の子二人以外に男の子がいたのか?」僕はそう言った。
頭がくらくらした。
妻はそれ以上は知らなかったが、
おそらくその男の子の名前は「ミムラ」という名前だろう。話を繋げると、
女の子二人が溺れているのをミムラは助けないばかりか、助けを呼ばなかった。その逸話がこの町にずっと残っているということだ。
二人はあの場所でずっとミムラを探しているのだ。既に越していないかもしれない男子を永遠に追いかけているのかもしれない。
実際には彼女たちの遺体は引き上げられ、あの池にはないが、事故の時の思念がずっと残っているのだろう。
全身の力が抜けていくようだった。やはり僕が見たのは、現実の子ではなく幽霊だったのだ。
だが、亡くなったのは子供の時だ。彼女たちはどう見ても女子高生の姿をしていた。
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