第4話 二人の少女①
◆二人の少女
そう思った時、突然、目の前が暗くなった。考え事をしていて前を見ていなかった。気づいたら目の前に人影があった。
人影は二人の女の子だ。月が少し陰ったせいで、顔がよく見えないが、年齢は二十歳前後だと思う。いやもっと下かもしれない。
危うくぶつかるところだったと思ったが、向こうは僕の存在に気づいていたらしく、立ち止まっている。
池に沿った歩道は狭い。雑草も伸び放題で、すれ違いもままならないほどだ。
背の高い女の子の方は僕を迷惑そうにしている。低い方はその斜め後ろに控えている。少なくとも背の高い方には道を譲る気配はない。
仕方ない、僕が道を譲るとするか・・
「すみません」
僕は小さく言って体を横にした。車道側に出れば済む話なのだが、そこまで下手に出ることもない。僅かに体を横にするだけで通れる。
僕は体を横にしながら思っていた。
人影は先の方までなかったはずだ。いくら視力が悪いとはいえそこまでは見落とさない。
女の子は軽く会釈をして通り過ぎると思っていたが、そうはしなかった。
斜め後ろの小柄な女性は、少し頭を下げたが、背の高い方は顎を上げたまま向かってきた。
その瞬間、翳っていた月が姿を現し二人の女の子の顔を明るく照らした。
二十代に見えたがもっと下のようだ。
けれど、二十歳より上だと思いたい。何故なら、こんな遅い時間に十代の女の子がこの道を歩いているのは不自然だからだ。
更におかしいのは服装だ。彼女たちに申し訳ないが、何だか古臭く感じる。今の流行と違う気もするし、年代も合わないような感じだ。ちぐはぐな印象を受ける。
まあ、そう気にすることはない。一瞬の出会いのようなものだ。
彼女たちとすれ違い、自宅のドアを開ける頃には、二人の女の子のことはすっかり忘れ、食事をし風呂に入り、布団に入ることだろう。
だが、運命はそうはさせてくれなかったようだ。
すれ違いざま、
「ちっ」と舌打ちが聞こえた。
舌打ちは背の高い高圧的な女の子から発せられた。それは明らかに僕に対して放たれたものだ。
それが分かった瞬間、言いようのない怒りが込み上げてきた。
むかっとした。
普段、会社では温厚で通っている僕が、どうしてこんな感情になったのか、後から考えても不思議なのだが、おそらく、子供の頃を思い出したのだろう。
同じクラスにいた不良娘によくからかわれていたことが頭を過った。子供の頃だから、大したことではなかったが、けっこう頭に残っている。
その子のことを思い出した瞬間、
気がつくと通り過ぎようとする二人に声をかけていた。
「おいっ!」と彼女たちを大きく呼び止め、「僕が何かしたか?」と抗議の声を上げた。
道を譲ったのに舌打ちをされる覚えはない。そう言ったのだ。
だが振りかえった彼女たちと向き合って、声をかけたことを後悔した。
やはり、思った通り、まだ高校生になるかどうかの年齢だった。僕のような大人が一時の感情に任せて抗議するような相手ではなかった。
それに何だ? 彼女たちの顔の色は・・
余りにも白いではないか。
これは月明かりのせいなのか、彼女たちの肌の色が余りにも白い。
向こう側が透けて見えそうなくらいだ。
それは二人とも同じだ。
彼女たちの顔の色を見た時には先ほどまでの怒りは失せていた。
その代わりに、別の感情が込み上げてきた。
背筋がゾッとし、辺りの空気が急に冷え込んだ気がした。二人の女の子にこの世ならざるものを感じたのだ。
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