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ついに、という声が多かった。怪物が、怪物と対決する。
クレメンスは連勝し、full moonヘビー級チャンピオンの座を守り続けていた。そして、かつてfull moonで活躍していた、世界最強ヘビー級戦士と名高いルナンドスとの対戦が決定したのである。
ルナンドスは元々柔術の選手だったが、総合格闘家に転身すると連戦連勝。寝技だけでなく、打撃でも一流の動きを見せてきた。full moonから移籍した後も連戦連勝で、団体や興業の枠を越えて「対戦できる相手」が求められていた。
そんな中full moonとThe Bestが手を組み、さらには有力団体がいくつも加わって大規模イベントを行うことになった。総合格闘技界の大祭典である。
そんなお祭りの目玉が、クレメンスの試合だった。
デビュー以来負けなし、見た目通りの怪力と、予想外のテクニックで勝ち続けてきた怪物。完璧な怪物相手に、どこまで通用するのか。注目度は高い。
前評判では、ルナンドスが圧倒的有利だった。しかし、ルナンドスはもはや全人類に対して圧倒的有利と思われており、クレメンスはその中ではチャンスがある方ではないか、とも言われていた。
「大一番、か」
タブレットで記事を確認しながら、ジムはつぶやいた。
格闘技ニュースでは、迫りくる一大イベント「The MOONSUN」のことが大量に取り上げられていた。有名選手が大量に出場することになっており、様々な特集が組まれている。
出場選手の中にジムの名前はない。試合が組まれていないのである。クレメンスのセコンドとして会場に向かうことになっていた。
もやもやするものの、仕方ない。ジムは強豪選手に対しては1勝もしていない。一般層への知名度があるわけではないし、ビジュアルだけで売り出すほどの見た目でもない。様々な単体から選手が集まるということは、それだけ枠の奪い合いが起こっていたということだ。ジムは、リザーブ選手としてもリストアップされることはなかった。
大きく差が開いてしまった。ジムは、ため息をついた。クレメンスとジムは、今や全く違う世界に生きている。
ただ、クレメンスに輝かしい未来が約束されているとは言えなかった。本物の強豪と戦うことで、メッキが剝がれるだろうとも言われているのだ。今はラッキーで勝ち続けているだけで、今回で弱さが露呈するだろう、と。
ジムも、クレメンスの勝利を予想することはできなかった。やはりルナンドスの強さは別格だ。それに、クレメンスの実際の強さもいまだにはかりかねている。
クレメンスが負けるだろう。そう考えることはつらかった。ただ、楽観的になることなどできなかった。
負けた後、クレメンスはどんな表情をするだろうか。
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