7-3

 ジムの足払いで、対戦相手は簡単にバランスを崩してマットに倒れた。ジムは素早く組み付いて、バックをとる。腕を首に回して、徐々に態勢を整えていった。

 相手はもはや、なすすべもない。ジムの腕をタップし、勝負は決まった。

 1ラウンド1分15秒、リアネイキッドチョークでジムは勝利した。

 ジムの表情に笑顔はなかった。

 待望のThe Bestでの初勝利。しかしそれは、ある程度「準備されたもの」だった。相手はかなり知名度はあるものの、それは実力によってではない。動画チャンネルの登録者が多く、格闘技とは関係ない投稿が人気となり有名になってきた者なのである。

 技術的には、圧倒的にジムの方が有利だった。それは格闘技ファンなら誰もが知るところだったが、そもそもそれ以外の者を誘引するためのカードだったのである。

 本当はどのように勝つかが問題だったが、ジムにはそれを考える余裕もなかった。彼の中では、とにかく勝つことが大事だった。

 勝負はあっけなく終わり、ため息も多く聞こえてきた。メジャー団体という格に合うだけのファンは、まだ獲得できていない。ジムは広い客席を眺めながら、そちらに対しては敗北感を抱いていた。



「あれは導入するのか」

 クレメンスがジムに尋ねた。二人はバザルアジムで並んでランニングマシンで走っていた。家は別々になった二人だが、ジムではほぼ毎日顔を合わせている。

「あれ? ああ、見ていなかった」

 二人の前にはモニターがあり、格闘技チャンネルが映し出されていた。

「いい動きだ」

 クレメンスは感心している。

 映し出されているのは、MMAロボットだった。人間の練習相手になるよう開発されており、自動学習機能もある。単に練習を重ねれば強くなるだけでなく、ネットワークモードによって自分以外の経験も取り込むことができるのだ。

「とはいえ、まだプロレベルではないな」

 ジムは、クレメンスの方を見て言った。視線を合わせて、クレメンスは眉をしかめる。

「そうなのか」

「ただ動きを真似できるとか、そういう風に見える。自分で考えて試合できるとか、そういうのは先の話だろう」

「練習相手だから別にいいんじゃないか」

「それはそうだ」

「スランは買うと思うか?」

「どうかなあ。最近潤ってるから買うかもな」

 そう言いながら、ジムは「買わないだろうな」と思っていた。ロボットを戦いの相手にすることを、スラン会長は求めていないと予想したのである。

 二人の前を、掃除ロボットが通り過ぎていった。

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