6-7
「負けたのか……」
リングの中を駆け回るセルシングルフの姿を見て、ジムはつぶやいた。
何とか自力で起き上がり、ふらふらとリング中央に歩いていく。気付いたセルシングルフが、大きく手を広げてからハグしてきた。
「ありがとう、楽しかった」
セルシングルフが、本当に楽しそうに言った。
「強かったよ」
絞り出すような声で、ジムは言った。
敗北とは、こういうものか。
完敗だった。もしもう一度同じハイキックを放たれたとしても、ジムは避けられる気がしなかった。いや、ハイキックであることにも気が付いていなかったのだ。セコンドに聞いて初めて、ジムはどんな攻撃で自らが倒されたのかを知った。
やっばり、自分はクレメンスとは違う。
今日のことは忘れよう。ジムはそう思った。生涯負けなしで過ごせるなどとは思っていなかったし、クレメンスだっていつか負けるだろう。自分の方に早く敗北という運命がやってきただけの話だ。
色々な言い訳を考えた後、ジムは首を振った。
「俺が、弱いだけかもしれない……」
「ジム、大丈夫か」
スマートフォンに表示された名前を見た時、ジムは目を丸くした。クレメンス。彼が電話をかけてくるのは、初めてだったのである。
「はは、大丈夫さ。しっかり生きてる」
「よかった。あれは危ないものだ」
「やっぱりそう見えたか」
「人間の足があんなに高く、あんなにしなやかに上がるなんて知らなかった。勉強になった」
「それはよかった」
「帰るのは明日になる。待っててくれ」
「ああ」
ああ、クレメンスはちゃんとした人間になったんだ。そう感じた時、安堵と寂しさが入り混じり、不思議な感情とジムは向き合わなければならなかった。
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