5-6
下になったアルエスが、クレメンスの右腕をつかみ、首を足で挟む。まだがっちりとは極まっていない。
これまで、アルエスが三角締めを見せたことは一度もない。そして、あまり得意なようではなかった。クレメンスが特別上手くガードしているわけではなかったが、なかなか形をよくすることができない。
バランスが崩れ、二人が転がるようにして絡み合う。アルエスの手がクレメンスの腕から離れ、二人が同時に置き上がった。そしてアルエスが、クレメンスのバックを取る形になった。
「まずい!」
スラン会長が叫ぶ。最も警戒していたことが、起きているのだ。
三角締めと違い、相手の後ろを取る形はこれまで何度もアルエスが見せてきたものだった。それは、レスリング時代からである。
クレメンスの太い胴をがっちりと両腕でつかむ。クレメンスの体が、少しずつ浮き上がる。
「あっ」
ジムも声を上げた。彼はむしろ、クレメンスがレスリングの技術でやられる展開は予想のうちであり、一瞬前までは「善戦したな」と思っていたのだ。しかしアルエスは、綺麗にクレメンスを投げることができなかった。スープレックス・アルエスが、うまくスープレックスを放てなかったのである。体勢の崩れたクレメンスは、肩からマットにたたきつけられた。アルエスは、クレメンスの下敷きになるようにして倒れた。
二人はよろよろと、立ち上がる。クレメンスは顔をしかめて、右肩を左手で押さえていた。アルエスはふらふらとしている。
カーン。
ゴングが鳴った。第1ラウンドが、修了した。
「おい、大丈夫か」
スラン会長の問いかけに、クレメンスは首を縦に振った。しかし、見たことのない苦悶の表情である。
「足が効いていて良かった。ただ、危ない落ち方をしたな」
ジムがそう言うと、クレメンスはしばらく唇を噛んでいた。
「……あれは予想外だった。やられていてもおかしくなかった。俺は……一度、殺された」
クレメンスは絞り出すように言った。
「何言ってんだ。万全の投げを打たせなかったんだから、互角の勝負だ。変な三角締めも極まらなかった。相手だって勝ててる気にはなっていないはずだ」
ジムがそう言ってクレメンスの肩を叩いた時、城内が騒然となった。クレメンスたちのいる対角線上で、アルエスたちがうなだれていた。話を聞いていたレフェリーが、腕を横に振る。
「えっ」
スランは、何が起こったのかわからずにいた。ジムはわかってはいたが、信じられない様子だった。
2ラウンドは始まらない。試合が終わったのだ。
クレメンスとアルエスが、リングの中央に呼ばれる。アルエスは足を引きずりながら、ゆっくりゆっくりと歩いていった。
1ランウド終了時、スープレックス・アルエス棄権。スプーキイ・クレメンスの勝利となった。
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