5-5
「おしまいだ……」
スラン会長は、頭を抱えた。
アルエスがグラウンドで上になれば、逃れられる人類などいないと考えられていた。過去立ち上がった者はいた。だが、その瞬間にバックを取られ、投げ捨てられた。スープレックスによって相手を失神させて勝利したことに揺り、アルエスの異名は決まったのである。
クレメンスは防戦一方である。1ラウンドは残り6分ちょっと。
「足を」
ジムが、アルエスの左足のふくらはぎを指さした。じんわりと青く変色していた。
「効いていないはずがない」
スラン会長は目を見開いて、一縷の希望を見つめた。
「ただこの体勢では……」
クレメンスは完全に上からコントロールされている状態で、相手が左足を痛めているからどうにかなる、という風には見えなかった。だが、ガードはできている。アルエスはここからバックをとってチョークを極めるのが得意だったが、クレメンスはそれを完全に防いでいる。
ジムは、不思議と穏やかな気持ちでリング上を見つめていた。おそらくこのまま試合が進めば、アルエスは判定勝ちをすることもできるだろう。ただ、それで満足する男ではない。
観客も、「アルエスがいつ極めるか」を期待して見守っている。
「この試合は負けるかもしれんが、いい選手になったもんだ。アルエスをここまで苦しめるとは」
「会長、まだ終わってませんよ」
「そうは言うがな」
「あいつは殺すために戦うと言っていたけれど……それは、生きるためでもあるんです。どんな相手が来ても生き残る。父親のようには死なない。そう考えて強くなった」
「ジム、気持ちはわかる。ただ、耐えるだけじゃどうしようもない。格闘技は、時間が終わったらその試合では死ぬんだ」
「会長も、あの試合でそう考えて最初から突っ込んだんですか」
「……そうだ」
ジムは、クレメンスを、その顔を、その両目を指さした。
「クレメンスは勝つつもりです。アルエスにも隙が生まれると思っているはずです」
「そんなことがあるのか」
「それは、わからないです」
残りは2分30秒になっていた。アルエスの額に汗が光っている。
クレメンスが腰を浮かそうとしたところで、アルエスは右腕を取った。初めて見る王者の動きに、会場がどよめいた。
「腕を極めるのか」
スランは目を見開いた。「おそらくアリエスは腕をとりに来ない」というのがジムの皆で出した結論だったのである。これまでアルエスはそういう技を出していないし、「クレメンス程度」には新しい引き出しを見せないだろうと考えたのである。
「スムーズではない」
ジムは、小さな小さな声でつぶやいた。クレメンスは腕を極められそうになりながら、強引に立ち上がった。アルエスは腕をはなさず、下になっても攻め続け、三角締めのような体勢になった。
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