躍進
4-1
「あの……」
大きな男が二人、舞台上にいる。一人は元大相撲の力士で、格闘家に転身したタキノホウ。日本で
もう一人は、スプーキイ・クレメンス。全く未知の存在で、バックボーンとなる競技も存在しない。かといってストリートファイトをしていたわけでもなく、全くの謎に包まれた選手である。今回がプロデビュー戦で、どんな戦い方をするのか知っている者はほとんどいない。
「俺は7歳から柔道に空手をやって、10歳から相撲をやっている。こんな何をやってきたかわからないやつに負けるわけがないだろう」
タキノホウは、両手を大きく広げながら言った。
「しかしこいつが弱いかはわからない。全力で勝ちに行く。デビュー戦が引退試合にならないように気を付けるんだな」
そう言って、タキノホウは横を向いてクレメンスをにらみつけた。クレメンスは表情を変えなかった。
「ありがとうございます。試合ができてうれしいです。ご忠告いただいたとおり、引退試合にならないよう気を付けます」
スラン会長が目を丸くした。今回は特に「こういうキャラで」と言われてはおらず、クレメンスは自由に受け答えをすればよかった。そんな中で、見たことがないほど丁寧な言葉を使っていた。
「ただ、与えられたチャンスを生かして行けば、今後も試合を重ねていけると思います。俺を救ってくれて、育ててくれた人たちに感謝したいです。真人間になるためにも、頑張ります」
そう言ってクレメンスは頭を下げた。
「練習したとおりにできたじゃないか。完璧だ」
ジムはにやりと笑った。
謎の大男クレメンスは、それほど話題にはならなかった。格闘技ファンは、「未知の強豪」の出現に慣れているのである。
それでも許容することに、ジムはfull moonの自信を感じていた。色付けしなくても商品になる、と感じているのだ。しょっぱい試合はさせられない、と感じていた。
「いいか、大丈夫だと思っていても、レフェリーが止めたら試合終了だ。勝負はリングの法則で決まる。殺し合いじゃないってのは、そういうことだ」
ジムとクレメンスは、リングの上で対峙していた。ジムがパンチを繰り出していき、クレメンスがそれをガードする。ひたすらそれを繰り返していた。
「なんか殴るだけでいてえわ」
ジムが苦笑する。対格差もさることながら、「硬さ」が違うとジムは感じていた。クレメンスの筋肉なのか骨なのか、とにかく分厚い鉄板を殴っている感覚になるのだ。
「俺も痛い」
「はは、そうは見えない。それは得している」
「そうか」
二人は練習を続けた。
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