3-3

「来てくれないかと思った」

 白いベッドの上からレリンは言った。

「入院するとは思わなくて」

 ジムはテーブルの上に雑誌を置いて、椅子に腰かけた。

「完敗」

「だったな」

 レリンは検査の結果、入院が必要ということになった。先日はスラン会長が付き添っていた。

「クレメンスはなんか言ってた?」

「え、クレメンスが?」

「意見が新鮮じゃない。あいつが何を言っていたのかは気になるな、って思って」

 ジムは腕組みをして、天井を見上げた。

「血が出てるのが怖い、と言ってた」

「意外」

「死を感じる、って」

「やだ」

「やたらとそういうこと言うから」

「不思議な奴よね」

「ああ」

 しばらく話した後、ジムは病室を後にした。一人になったレリンは、「死を感じる、か」とつぶやいた。




「あの、お話がありまして」

 バザルアジムで休憩しているときジムに話しかけてきたのは、トレセットという青年だった。彼は地方からプロ格闘家になるために出てきており、毎日地道にトレーニングをしていた。

「どうした」

「僕、田舎に帰ろうと思うんです」

「突然だな」

「実は最近ずっと考えていて。この前のレリンさんの試合を見て、踏ん切りがつきました」

「この前の試合でか怖くなったのか」

「はい。なんか、未来の自分の姿を見るようで」

「強くなれば、ああはならないんじゃないか」

「なれません」

 あまりにまっすぐ言われたので、ジムは少したじろいだ。

「断言したな」

「以前クレメンスとスパーリングしたときに……分かりました。自然と強い人にはかなわないって。ああいう人が練習して、強くなって自分の前に立つとしたら……そう思うと怖くて。ダラダラと血を流してる自分を想像してしまって」

「残念だけど、仕方ない。地元に帰っても、趣味で続けるってのもありだぞ」

「そうですね」

 強張ったトレセットの笑顔を見て、「続けないな」とジムは思った。そして、クレメンスが皆に影響を与え始めていることを実感した。

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