1-2

「よわよわじゃん、ジム。試合明後日でしょ?」

 声をかけてきたのは、金髪で目鼻立ちのはっきりとした美女だった。

「そうさ、俺はいま人生で一番弱ってるよ、レリン」

 ジムは椅子に座って圧向き、長い髪で顔を隠していた。

「秒殺されるんじゃない? いつもかっこいいとこ見せなきゃあんたじゃないよ」

「ははは。かっこつけ野郎だからな、俺は」

 レリンは唇を尖らせた。

 彼女はバザルアジムの古参で、すでに実戦を重ねていた。3勝4敗、それが彼女の成績である。「美女ファイター」が彼女の肩書であり、期待の若手でも強豪でもない。最近4か月は試合から遠ざかっており、オファーもない。

「やっとたどり着いた憧れの舞台なんだからさ。世間に見せつけてやる気持ちでやればいいのに」

「君ほど前向きになれればと思うよ」

 力なく首を振ったジムは、視界の端に筋トレをするクレメンスをとらえた。彼はふと、得体のしれない男に尋ねてみたくなった。

「クレメンス、お前なら試合の前日はどんな気分になる?」

 クレメンスはダンベルを持ち上げながら、少し首をかしげた。

「……変わらないと思う」

「いつも通りってことか」

「決まった日に決まった相手とやるなら。……殺し合いじゃないし」

 ジムとレリンは顔を見合わせてた。

「そうねジム。殺し合いじゃないから頑張って」

「ふうむ……」



 ジムは、昔のことを思い出す。

 減量に苦しむ中、ジムの心は現実を離れていった。子どもの頃から長身だったので、バスケやバレーに誘われた。やってみたが、あまりうまくならなかった。アマレスもしてみたが、なかなか勝てなかった。ただ、指導者は言った。「もっとやればうまくなれる。何をやってもそこそここなせそうだ。ただ、一流になれるかはわからない」

 そんな中偶然通りかかった時に見つけたのが、バザルアジムだった。「総合格闘技ならば、上手くいくかもしれない」ジムはそう思ったのである。

 実際には、苦労の連続だった。決して、確実に活躍できる人間とはみなされなかった。スラン会長はこう言ったことがある。「試合したいだけならばなんとかしてやれるかもしれない。ただ、活躍したいなら努力が足りない。天才じゃないんだ」

 試合にはたどり着けた。活躍できるのかどうか。ジムは、頭を抱えた。「明日、わかってしまう」


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