1章2話:研修にはトラブルがつきもの
あれから数日後。俺はリヴの車に乗せられていた。いったいコイツは何歳なんだろうか。
彼女の長い銀髪や、落ち着いた格好を見た限りでは20代前半のように見える。が言動は子供のように無邪気だ。そんなことより。
「どうしてこうなった!俺は拒否したぞ。」
「君に拒否権はないの。私は君の命の恩人だよ。」
そんな横暴な恩人に連れて来られたのは隣県の普通の市街地。しかし、俺の視界には、黒い霧のようなものがかかって見えた。
「これが残滓なのか?」
「そう。霧のかかる範囲が広ければ多くの人が巻き込まれるし、霧が濃ければより強い《惨滓》が現れる。」
「じゃあ、これを除去すれば被害が減るのか?」
「正解、察しがいいね。じゃ、作業を始めよう。」
そう言ってリヴが渡してきたのは、霧吹きだった。
「こんなのでいいのか?」
「こんなのとは言うけど、これは神社で神の力を得た水でね、お祓いの力があるんだ。」
そんな説明を聞いて意外に思う。
「お前って神とか信じるんだな。」
「こんなことをやっていれば、必然と信じざるを得ないんだよ。」
そう言いながら霧吹きで吹きかけると、確かに霧の色が薄まり、霧が薄い場所はすぐに霧が晴れてゆく。
「本当に効果あった……」
「でしょう?」
「じゃあ俺が襲われた時もやってくれりゃよかったのによ。」
「やってたよ?」
「いつだよ。」
「飛行機から。」
「飛行機!?」
衝撃の事実だ。
「じゃ、じゃあ降ってきたのは……」
「当然、飛行機からダイビングしてきた。」
「他の乗客とかいただろ!」
「一般人の混乱と君の命を天秤にかけた結果だよ。君の時は予定より《惨滓》の発生が早かったんだ。仕方なかったんだよ。」
「まあ、それに至る理由があったのならいいんだけどさ……」
その先を言おうとした矢先、黒い霧たちが動き出す。
「なんか霧が動き出したぞ!」
「ちょっと無駄話が過ぎたみたいだね。」
霧が集まり、磨りガラスのような幕がドーム状に町の一角を覆った。
「これが領域。」
気づけば前回と同じように妙な空気を感じ、人の気配が消えた。
「あんま慣れないな、この感覚。」
「ま、私は慣れてるけどね。」
そうドヤ顔で経験の差を自慢してくる。
「まあ、自慢してる余裕もないみたいだけどね。」
そう言ってリヴが前を向くと、霧が大きく集まり出していた。
「おい、これって霧吹き使って弱体化できないのか?」
「君はバトルもの見たことないの?敵であれ味方であれ変身中の攻撃は御法度だよ。」
「知るか!俺はここで足掻かなきゃ死ぬんだ!」
「全く、何もわかっていないね。」
そのまま霧を吹きかようとすると、霧は何かに阻まれ、そのまま散ってしまった。
「ほら、言ったじゃない。御法度だって。」
「御法度だからって対策があるとは知らん!」
「でも、対策か……今回はめんどくさいことになるかもね。」
「え?どうしてだ。」
「今霧を散らした結界。あれは《惨滓》でも強くないと貼れない。しかも霧が負けて散るほど強固となると結構強いかもね。」
「前より強いの?嫌なんだけど……」
「まあ、なんとかなるよ。」
そんな楽観的な顔を見ていると。どうにでもなるような気がした。
霧が集まるのをやめ、人型を作り始めた。このタイミングでどうやら《惨滓》が発生したらしい。
「さぁ、構えて。敵が来る。」
「なあ、そう言われても、武器がないんだが?」
「え?まあそこは現地調達で……」
「急に投げやりだな!お前は拳銃持ってるくせに!銃刀法違反じゃねえか!」
「いいの。バレなきゃ。」
「それはアウトってことじゃ……」
そんな軽口を切り裂いて、叫び声が聞こえた。
目の前では二足歩行のゴリラのような体をした大口の《惨滓》が結界を破り迫る。
「早くね!?」
ビビって身を引くと俺がいた地点に拳が振り下ろされる。砕け散ったアスファルトがその威力を物語っていた。
「えっ、俺死ぬんじゃね?」
《惨滓》が迫るそんな考えが頭をよぎる。
「だから、すぐ諦めないで。」
瞬間、《惨滓》の体を弾丸が貫いた。
「良かった、効果アリだね。」
「もっと早く打てば良かっただろ……」
「君に当たって良かったならもっと早く打てたよ。」
どうやらエイムはおざなりらしい。
「失礼だなっ!」
心を読んだのか、怒りながら連発して《惨滓》に弾を当てるリヴ。
そのまま《惨滓》はうめき声をあげ尻餅をつく。
「今だ。ダメージを与えるチャンスだよ。」
「だから俺には武器が……」
俺の言葉を遮って渡されたのは拳銃だった。
「武器あるじゃねぇか!何が現地調達だ!」
「腕試しだよ。まあ失格だけどね。」
「丸腰じゃ何もできないだろ。」
もうどうしようもないので拳銃を放つ。しかし勢いが強く、少し体が持って行かれる。おかげで弾は外れてしまった。
俺より小柄なのにこれを制御していたイヴは相当な練習を積んでいたのだろう。
そうイヴを見直している余裕もなく、《惨滓》が立ち上がる。
「やっぱりタフだね。一気に大ダメージを与えるしかなさそうだ。」
「俺、また踏み台にされる感じ?」
「しなくていいよ。腕試しのつもりだったけど、レベルが高過ぎたみたいだ。私がケリをつける。」
そう言うと、リヴが消えた。気づけばリヴは《惨滓》の懐に入り込んでいた。《惨滓》も気づき、拳が迫る。しかしそれより早くリヴが腹に銃口を捩じ込むと、そのまま弾を何発も打ち込み、腹に大穴を開けた。
「……は?」
「はい、おしまい。」
そのまま「帰るよ。」とこちらを向くリヴ。
「いやいやいや、今のありえん動き何よ。」
あれは流石に見過ごすことはできない。
「まあ、そのうち分かるよ。」
そうはぐらかされてしまった。
相変わらずリヴの謎が多すぎる。
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