第10話 第1章ー⑨
「はあぁっ!!」
「『ふっ、無駄なことを』」
再び接近した俺は業火剣に魔力を注いで炎の出力を上げ、手数を増やしてエイシャを斬りつける。炎の出力により斬った時の燃焼範囲が拡がり、攻撃速度も上がっていき、エイシャの身体は一瞬で細切れと化していく。
しかし、エイシャは細切れにされている事を認識していないかと思ってしまうぐらい普通に喋っている。これだけ斬って燃やしてもノーダメージか。ここまで来ると、不死身とかそういう類ではないような気がしてくる。そもそも斬った手応えがないのが不可解だ。
「『さて、そろそろ私も反撃させていただきましょうか』」
「ッ!?」
俺の攻撃を攻撃の手が止まった途端、俺の足元に二つの丸い影が出現してきた。こいつ、あんな細切れになった状態から攻撃出来るのか。
「『【
「くっ!?」
エイシャが魔法を唱えると、二つの丸い影から黒くて細長くて小さい槍のようなものが、螺旋を描きながら俺に向かって来る。攻撃が来ることを想定していた俺は、エイシャの魔法が来る前に脱兎跳躍で後退しており、こめかみに掠める程度で事なきを得た。危なかった。もう少し反応が遅れていたら首をやられていたところだ。
「『ほう。これは避けれますか。それなら、これはどうでしょう』」
「ッ?!」
そんな束の間、回避で距離を取った俺にエイシャは追撃を仕掛けるように自らの足元付近に無数の丸い影を生成していた。マズい。今度はさっきの比じゃない程の攻撃が来る。
「『【
エイシャが再び魔法を唱えると、数十、いや数百の槍が襲って来る。あれだけの数を詠唱もなしに出せるとは、これが魔王幹部クラスの実力か。
業火剣をもう一つ使えればなんとか捌けそうだが、片手を失っている故、かなりマズイ状況だ。捌けないのであれば、ここは魔法で相殺するしかない。
「纏え、炎の渦よ! 荒れ狂え、業火の斬撃!【
「『ッ!?』」
詠唱を唱えると、業火剣の炎が渦を描いていき、さらに剣のリーチが伸びていく。一瞬で業火剣は元の倍の大きさに変わっていく。
そんな業火剣から放たれる斬撃は、一振で結界の端から端まで届く程の炎が渦を巻きながら放たれていく。
斬撃は渦の回転により、エイシャごと巻き込むように攻撃を吸い込んでいく。数百あった黒い槍は全て斬撃の渦に飲みこまれ、一つとしてこちらに届くことはなかった。
「…ふんっ!」
と言いつつ、背後から来た黒い槍二つをなんなく弾く。どうやら前からの攻撃はブラフで、俺の背後に設置してあった方が本命だったようだ。離れた距離からもあの槍を放てるのか。さしずめ遠隔で起動出来る設置系の
「『ほう。まさか、後ろの罠にまで対応されてしまうとは。中々やりますね』」
「それはどうも」
相変わらず何事もなかったかのような口調で話し始めるエイシャ。さっき奴の攻撃ごと巻き込んだつもりだったが、あれでも無理だったか。ほんとどうなってんだ、奴の身体は。
だが、奴の攻撃はこちらに通用する以上、なにかしらこちらの攻撃を通す方法は必ずあるはずだ。それを今は手探りで探すしかないのだが。
今のところエイシャについてわかったことは、奴は影魔法の使い手であること。影魔法はその名の通り、影を用いた魔法を使用する。影魔法の強みは自由自在に物を生成出来ることだ。エイシャが使った槍のような武器だけではなく、動物のような生物ですら生成出来る。といっても、使い手の意思でしか動かないようだが。
戦っている最中、あの姿は影魔法で生成されたものなのではないかとも考えてはみたが、あれだけ意思を持って喋る影魔法は見た事がない。なにより、使い手本人が見当たらない。ここまで強力な生物を制御しているのであれば、どこかに本体が居る筈なのだが全くその魔力を感知できん。というか、奴から放たれる魔力は、魔法で生成された物の類ではありえない程禍々しくて強大だ。そう考えると、奴がエイシャの本体で間違い。
しかし、あそこまで手応えを感じないのは何故だ? 奴と戦っていてからずっと妙に変な違和感を感じている。なんなんだ、この違和感は。
しかし、奴を倒さない以上
「焔の断刀、赫灼の炎を昇らせ、天地に振り下ろし灼熱の一振りで対敵を燃やし斬り伏せる」
俺は業火剣を上段に構えて詠唱を唱える。詠唱を唱える始めると、炎が更に勢いを増して、結界の天井が壊れてしまいそうな程の火力まで上がる。これ以上負荷を掛けてしまったら本当に壊しかねないが、奴を倒す為には致し方あるまい。
手数で駄目なら、一撃で全て
「【
「『ッ!?』」
詠唱を終えると、業火剣は激しく燃え盛り、結界内とその周辺が紅に染まる。俺の周囲は業火剣から放たれる炎により、烈風が吹き荒れ、雑草が飛び交い、それが燃えカスと化していく。
激しく燃え盛る業火剣を振り下ろす。振り下ろした剣は相手から離れた距離から届く程伸びており、放炎斬渦の倍以上の大きさを誇る炎の刃が奴を地面ごと一刀両断しそうな勢いで襲いにいく。いくら分裂や変形が出来たとしても、この技は斬った物をそのまま燃やしつくしてしまう、俺の最高火力を誇る技だ。
「『くっ!?』」
「ッ?!」
そう密かに願いながら振り下ろされた一振だったが、それに対してエイシャは右腕を影のように伸ばして結界にくっ付けた後、まるでゴムのように引っ張られていく。エイシャが初めて回避行動を取った。俺はその光景を見て少々驚いてしまった。今まで微動だに動かなかった奴が初めて動いたのだから。
しかし、赫火断刀は僅かに外れ、エイシャの左腕だけ切り落とし、轟音と共に地面に切れ目が入り、エイシャの左腕と共に地面に炎が爆発が如く燃え広がる。最高火力を誇る俺の技が、こうもあっさりと避けられてしまうとは。
そんなことよりも、奴が初めて回避したのが驚きだ。まさか、今の攻撃は奴に有効だったのだろうか。
「ははっ、初めて避けたな。今のは流石にヤバかったか?」
「『…』」
驚きのあまり、思わずこっちの方から煽ってしまった。まだ奴の弱点を見つけたわけではないが、攻略の糸口がもう少しで掴めて来そうな気がする。
「『…少し、遊びが過ぎてしまいましたかね』」
「ッ?!」
そう思っていたが、先程まで余裕をこいていたエイシャの様子に変化を感じる。ローブで顔が一切見えるわけではないが、奴の魔力の揺らぎでなんとなく伝わってくる。声色もどことなく怒っているような口調になっている。ここにきて初めて見せる怒る姿。正直、少しだけ背中がゾクッとしている。
それと同時に、俺の目先にさっきの槍のときより大きい円形の影が出現していた。今度は何を出すつもりだ。
「『影から守りし番人よ。我を守りし盾となり、敵を滅する矛となれ』」
「なっ?!」
怒れるあまり、奴も本気を出してきたか、詠唱を唱えている。エイシャが詠唱を唱えると、大きい円形の影が地面から浮き上がり、人間より一回りサイズの大きい球体の物体に変化した。攻撃魔法にしては遅すぎる。なにかを呼びたそうとしているのか。
「『【
エイシャが詠唱を唱え終えると、球体が不気味に動きだし、さらになにかに変形し始めた。
「ッ!? こ、これは…」
変形していく姿を見て驚愕させられる。球体から生まれた物は、黒い鎧を全身に纏ったゴーレムだった。ゴーレム系統の魔物を生成する者は見たことはあるが、あんな厳つい鎧を纏ったゴーレムは初めて見る。ったく、20年程騎士団に所属し、色々な魔族とも戦ってきたが、今日は規格違いなものばかり見せられて嫌になってくる。ただでさえ隠居生活で現役の時よりも鈍ってきてるっていうのに。
「『さて、ここからは私の得意な戦法で戦わさせて貰いますよ』」
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