第11話 第1章ー⑩

 「――――――――――!!」


 言葉では表現しきれない雄叫びをあげながらゴーレムは俺に襲い掛かってくる。


 「くっ!?」


 拳を振り上げ地面に叩きつけるように振り下ろされるが、動きは遅い。簡単に回避は出来たが、地面を叩き割る程の威力だ。迂闊に食らうわけにはいかんな。


 「『【黒影双槍ダーシャ・ぺスピア】!』」


 「ッ!?」


 ゴーレムの攻撃を避けた直後、左右から黒い槍が襲ってくる。ゴーレムの後ろに隠れているエイシャが飛ばしてきているのか。あの野郎、死角から狙ってやがる。


 「ちっ?!」


 一度回避したせいで、バランスを僅かに崩しており、次の回避を取れる体勢ではない。こうなったら迎撃するしかないか。


 「爆ぜる焔よ、きゅうとして…」


 「――――――――――!!」


 「ッ!? しまっ…」


 迎撃する為、火球を詠唱しようとするなか、ゴーレムは俺に向かって追撃を仕掛けようとしていた。しまった、これでは詠唱が間に合わん。仮に間に合ったとしても、ゴーレムの攻撃が防ぎきれん。


 「――――――――――!!!!!」


 「ぐうっ!?」


 詠唱を中断し、業火剣を盾代わりにする。なんとか黒い槍を二つとも防げたものの、ゴーレムの一撃による衝撃までは防げず、結界の端までふっ飛ばされてしまった。魔力で防御に徹したものの、激突した際の衝撃が背中に走る。背中がジンジン痺れる。まあ、骨が折れてないだけマシか。


 「――――――――――!!!」


 「はあ…はあ…、くっそ」


 背中が痺れているなか、ゴーレムの追撃は止まらない。操り人形のくせに、戦いの常識を知ってやがる。いや、戦闘の事しか叩き込まれてないなら当然か。


 さて、どうする。左右に避けたとしても、エイシャの攻撃が待ち構えている筈。前衛と後衛の二段構え、それが奴の本来の戦闘スタイル。かなり厄介な戦法だな。後退も出来ないし、まさか自分の魔法で逆に追い詰められるとはな。


 「…一か八か、やってみるか」


 追い詰められ、択を迫られた俺は、ゴーレムに突撃する。


 「うおぉぉぉぉぉ!!!!!」


 「ーーーーーーーーーー!!」


 ゴーレムとの距離が近づき、ゴーレムの拳が迫ってくる。しかし、防御の姿勢は取らず、業火剣を後ろに構えたまま突き進む。


 「よし! 今だ!?」


 拳が鼻先まで近づいた瞬間、俺はゴーレムの股下に滑り込んだ。業火剣から噴出された炎を利用し、軌道と加速力を変えることにより、ゴーレムの攻撃を回避しつつ、裏に回ることが出来た。


 「『何っ?!』」


 ゴーレムの股下を地面スレスレで抜けだが、俺の目的はゴーレムの裏を取ることではない。


 「焔の断刀、赫灼の炎を昇らせ、天地に振り下ろし灼熱の一振りで対敵を燃やし斬り伏せる」


 噴出した炎の力をそのまま利用し、ゴーレムと少し離れた場所に居るエイシャに向かって猛追する。左右に気を取られていたせいか、奴は俺の追撃に驚いて棒立ち状態だ。その様子を見ながら詠唱を唱える。奴が油断している今がチャンス。


 「『【黒影ダーシャ・ぺ…』」


 「【赫火ブリファ】、【断刀ブロード】ッッ!!!!!」


 奴が遅れて反撃する前に、詠唱を唱え終えた俺の一撃が奴の身体を一刀両断し、奴の身体は上半身と下半身が分離した後、一気に燃え上がった。


 あのゴーレムはエイシャによって作られた魔法だ。基本的に造形系の魔法は作った本人を倒せば解除される。奴の魔法も例外でなければゴーレムも同時に消滅する筈だ。


 「ーーーーーーーーーー??」


 術者本人は倒した筈だが、ゴーレムは消える様子がない。後ろで俺を見失ってキョロキョロしてやがる。散々異様な光景を見せられたからそこまで驚きはないが、これは術者が死後も継続される魔法なのか、それとも…


 「『…どうやら私は、貴方の実力を見誤っていたようですね』」


 「…くそ、やっぱり仕留め切れてなかったか」


 奴の身体を全身燃やし斬った筈だったが、いつの間にか奴の身体は元に戻りかけていた。即興でやったから、さっきより威力が下がったのか? それとも、さっきので対処法でも見つけたのか? 後者なら最悪だな。最大火力を誇る攻撃が通じないのだから。いや、正確には少し違うのだが。


 「『赤髪の方、名を伺っても?』」


 「? イノス、イノス・レールステンだ」


 そんなことを考えていると、エイシャが俺の名を聞いてきた。どういうつもりかは知らんが、教えても特に支障はないだろうと判断し、奴の問いかけに素直に答えた。


 「『イノス・レールステン。その名、しかと覚えましたよ』」


 「おいおいおい、どうした急に。俺に免じて今回は引いてくれるってことか?」


 「『残念ながらそれはありません』」


 「…ああ、そうかい」


 俺の名を聞いてきたエイシャに皮肉っぽく問い返すが、エイシャからは冷静な返答が返ってきた。一度引いてくれる事に僅かながら期待していた俺がバカだったな。


 「『イノス・レールステン。貴方に敬意を表して、私の本気を見せて差し上げましょう』」


 「ッ!?」


 エイシャの奴、どうやらまだ本気の力を隠していたらしい。さっきよりも魔力の気配が強くなっているから、ハッタリではなさそうだ。これはとうとう絶体絶命な状況になってきたな。


 「『陰に住まう小鬼共よ、我が先兵となり、敵を抹殺せよ』」


 「ッ?! ちっ、また増えやがるのかよ?!」


 エイシャが詠唱を唱えると、今度は複数体の影が出現。ゴーレムの時よりかは明らかに小さいが、中々めんどくさい事になる予感しかしない。


 「『【影召シャモン陰小鬼シェードグレムリン】』!」


 詠唱が終わると、小さい影達は姿を変え、黒い小鬼達に変化した。数は十体、これで戦況は十二対一になった。ただてさえ狭い結界内の密度が更に上がってしまい、このままだと数の暴力で嬲り殺しにされてしまうだろう。しかも一番厄介な奴が攻撃が通らないときた。


 「…はあ…」


 思わずため息を出さずにはいられなかった。ここまで追い込まれたのはいつぶりだろうか。騎士団に入団仕立ての頃ぐらいか。いや、その後も何回かあったか。


 「『どうしました? もう諦めましたか? こっちはようやく温まってきた所なのですが』」


 「…」


 あの野郎、あれだけやっておいて、まだウォーミングアップだったっていうのかよ。まあ、その話はどうでもいいとして、この状況を打開する策についてだ。正直、『今』の俺では無理だ。この狭い戦場で一人複数の敵を相手にするのはほぼ不可能だ。そもそも、術者本体に攻撃が当たらない時点でかなり不利な状況だしな。


 だが、なにか掴めそうな気がしている。しかし、それにはもう少し時間が必要だが、『今』の俺にはその時間稼ぎ出来る程戦力に余裕がない。


 「…仕方ねえ」


 「『?』」


 正直、あとの事を考えると、この手は使いたくなかった。身体が持つかどうかわからんからな。けど、あとの事を考えている余裕も無くなってきている。こうなったら、手段を選んではいられまい。











 「俺もそろそろ、本気出すか!!」


 ここまで来たんだ。俺の全力を持ってして、奴を討つ! そう心に決めた俺は、業火剣を強く握りしめた。

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