本当の独房もこんな感じだと思う

 今まで精神病棟、サンロクの建物の構造だとかルールだとかを紹介してきたが、これから、ようやく、体験してきたことを書こうと思う。ただ、まぁ、日記みたいに一日目がどうだった、二日目はこうだったと書いていくつもりはない。(仮に書いたとすれば、今まで書いた作品の中で最も長編となるだろう。)本作ではサンロクで体験したことや、出会った人々との交流の中から、印象的だった事柄を書いていこうと思う。

 さてさて、こんな出だしで始めてはみたが、ほぼ間違いなく、皆が皆、この日のことから書き始めるだろう。それは入院一日目。そう、サンロクに入った日のことだ。

 そもそも我輩、入院しなければならないほど重篤な症状ではなかったのだが、自身の進退も決めることが出来ず、にっちもさっちもいかない状態だったし、少々問題も起こしたので、主治医に

「入院をしようと思うのだが、」

 と言ったら

「じゃあ、任意入院ですね。」

 と、あっさり許してくれたのである。まぁ、実は我輩、五ヶ月くらい精神科に通院していたのだが、大した変化もなく、ただただ時間だけが過ぎている状況だったので、医者も入院で何か変化があるかも、と思ったのかもしれない。

 こうして入院することになり、サンロクのルール(主に持ち物のこと、詳しくは第二章を)を聞き、実際に入棟した。この時、二重の扉が出迎えてくれたことに驚き、更に逐一鍵を開け閉めするのを見て言葉を失い、それを見た案内人の看護師が

「ここにはいろんな人がいますので。」

 と一言放ったのを聞いて、理解しきれずとも納得することにした。そして軽くサンロク内を案内してくれ(第一章)、ようやく、我輩の病室へと足を運ぶ。

「ここが白下さんのお部屋ですよ。」

 と扉が開かれ、中に入ろうとした瞬間


 せま!!


 口に出さずとも驚きのあまり、立ち止まってしまった。

 そう、この部屋、目測1.5m×5mほどの細長く、狭いとしか表現できないのだ。そんな状況を何とかして受け入れようとしつつ部屋に入ると、看護師も続いて入ってきた。

「あっ、よかったですね。もうベット、できてますね。」

 と彼女は言ったが何が嬉しいのか。まさかベットを自分で1から組み立てるわけでもないのにと思いつつも、実際はシーツのことかと思い直しながら部屋を案内される。

「荷物はこちらの棚に入れてもらえればけっこうです。服(病棟着のこと)はあとからお持ちしますね。」

 と言いながら我輩のカバンを棚に入れてくれた。(中身のチェックがあったので、カバンを入り口で預けてた。それを彼女はずっと持っててくれたのだ。)

「貴重品はこの引き出しに入れてください。鍵はまたお持ちします。」

 と、棚についている一番上の引き出しを開け、すぐ閉めた。

 我輩は、はぁ、と返事をすると、看護師は「それでは」と言って部屋を後にした。

 え!? これだけ!?

 と本日何度目かの驚きを抱えつつも、ずっと唖然としていても仕方ない。先ずは部屋について知っていこう。

 大きさは先にも述べた通り、1.5×5㎡くらい。細長いのが特徴。入り口は部屋の中に向かって開く押戸で、見た目も材質も金属だ(しかも、そんなに重くない)。室内の様子は、入り口から数歩歩いたところにベット。その奥に棚があり、さらにその奥に腰の高さ程度の仕切り(木製で厚さもそこそこあり、立派)。じゃぁ、その仕切りの向こう何があるのかと覗いてみると、洋式トイレ。


 トイレ!?


 何度も書いて申し訳ないが、トイレである。しかも、戸とか壁とかなく、便座がむきだしで設置されている。あるのは立派な仕切りだけ。何故!? と思いつつも、観察を続ける。人間、本当に驚くとそれをよく見ようとすると聞いたことがあるが、今の我輩は正しくそれ。驚きが連発する日であり、だんだん慣れてきたと思ったが、このトイレには驚愕するしかなかった。

 ただまぁ、部屋にトイレが欲しいと思っている諸君。実際、部屋にトイレがあるのを経験した我輩からすると、衛生面とか色々気になって仕方ない。結局、このトイレは使わず仕舞いだったし。まぁ、トイレはトイレにあるからこそトイレなのだろう。

 トイレを観察し終えたら、ようやくこの部屋の最後の備品、机と椅子を見る。机は縦横横の幅が 50cm 程、高さは 40~50cm 程の小さなサイズ。椅子は背もたれがあり、立派とは言い難いが、逆に軽くて移動させやすく、便利な物だ(ちなみに、大広間の椅子も同じものである)。まぁ、備品としては申し分ない物だが、1つ文句を言わせてもらうと、机が低い。椅子に座っていると机の天板が膝の高さくらいで、ちょうど、応接間の机と椅子のセットみたいな比率だ。茶を飲むくらいならこの比率で問題ないのだろうが、机が低いせいで後々、苦労することになったのだが、それは後の話。

 さて、ここまで一通り部屋を見たのだが、ふと扉を見ると、とある言葉が頭に浮かんだ。

 ここ、独房みたいだな。

 無論、我輩は独房に入ったことはないし、見学もしたことがない。あくまでテレビやマンガで描かれたイメージしかない。だが、見た目からして重々しい扉(実は軽い)、無機質な組み立て式ベット、部屋に置かれたトイレ。

 そう、二四時間余すことなくこの部屋で生活できるようになされている様は、まさに独房。まぁ、我輩は自由に部屋を出入りできるし、日当たりの良さはめちゃくちゃ良い(デッカイ窓がついているの言い忘れてた)。そう言うところは独房と全然イメージが違うが、ただ、まぁ、この部屋の有様は独房を連想させられる。

 しかもここで追い打ち。

「白下さ~ん。お食事、用意できました。」

 と食器の乗ったトレーを持ってきた看護師。

 本当、二四時間ここで暮らせそうである。








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