出られない、持てない、それが檻
前章では、サンロクは解放制限がかけられていることを述べた。この様子が刑務所に似ていることから、『檻』と称したのだが、檻の中では当然、ルールが存在する。
と言っても、本当の刑務所のように、服に指定があったり、時間割が決められ、ある時間は労働に徹しなければならない、なんてことはない。一応、服にも決まりがあるし(まぁ、病棟着を借りる人が大半だが)、日課や食事の時間も決められているが、ルーズと言うかアバウトと言うか、まぁ、5~10分くらい前後しても問題はないのである。
しかし、刑務所並みに(尤も、我輩は刑務所に行ったことはないので、あくまで想像だが)、厳しく目を光らせているものがある。それは、病棟に持ち込める物だ。
短くて数週間、長くて半年に及ぶ入院生活に、当然必要な物がある。それは、病院が準備してくれたり、有料で貸してくれたりもするが、自身で用意しなければならない物もある。
では、ここで、仮に貴方が旅行に行くとしよう。その時に準備するのもが、サンロクに持ち込めるか確認してみよう。
おっと、ここで1つ注意を。今回の確認は病状が軽い人、つまり病棟に物を持ち込むのに制限が最も少ないケースで確認を行うことを断りに入れておこう。もちろん、サンロクがあるとある病院の事例であることも忘れずに。
閑話休題。旅行準備をいたしましょうか! 今回は入院が前提なので、1週間の旅行と考えて準備してみよう。
まず、必要となる物として名が出てくるものは着替えだろう。まぁ、世の中、必要な物は現地調達をする人もいると聞くが(我輩の知り合いにもいる)、大抵の人なら、旅行に行くのに服は準備するだろう。そして、服をサンロクに持ち込めることができるかどうかが、今回の重要なテーマである。そして、その可否は…、可能、である。病棟着を有料で借りることも出来るので、サンロクに服を持って来ていない人も多いが、当然、私服で過ごしている人も一定の割合でいる。特に、長期入院している人は私服である傾向が見られる。まぁ、病棟着のレンタルも高いしな。
ただし、サンロク内はどの様な服装でもOK! と言う訳ではない。もちろん、風紀を乱すような格好はだめだが、精神病棟ならではのルールも存在する。それは、細長い物、具体的にはベルトやリボンが付いている服は持ち込めないのだ。理由として、危険防止と病院から説明されているが、ぶっちゃけるとこれらの物を首に巻いて自殺を図る人がいるかもしれないので、それを防止するため、なんだとか。なので、スカーフやバンダナも駄目だし、ズボンについている紐(ウェストを締めるあれ)も取らないといけない。
となると、サンロクに持ち込める服は、ランニングやスポーツジムでトレーニングをするときの格好となる。あるいはスウェットのように家の中で着るような服か。まぁ、その他の格好をした人はいたが、スーツや制服のような格好は到底無理である。
だらだらと服の話を続けてもあれなので、次の持ち物を見ていこう。服の次に必要となりそうなものは、身を清潔にする物か。具体的には風呂周りの物とか、朝の洗顔セットとか。これらも持ち込み可である。シャンプーとかボディーソープは病院にも準備してあるが、こだわりもあるだろうし、肌との相性もあるので特に規制はされてない。ただ、荷物を保管する棚は小さいので、あれもこれも持ち込むのは難しいだろう。必要最小限を目標にすると良いだろう。
また、タオル類も持ち込みは可能で、風呂上がりに使うバスタオルや、日常でのフェイスタオル等、特に規制はない。細長いし首にも巻けるが、規制はない。まぁ、もしかしたら、規制がかかってる人もいるかもしれないが皆普通に使ってた。ただ、濡れたタオルを自分で保管するのも大変なので、タオルのセットのアメニティを、病棟着を借りてる人はもちろん、借りてない人もタオルだけ借りていた。まぁ、こっちも有料だけど。
持ち物確認の3個目に移ろう。続いては、貴重品。購買がある以上、我輩達も買い物はできる。そこで必要となるお金だが、何と有料でナースステーションで預かってもらえる。管理費として1日90円取られるので、100円を持ってても明日には10円になってまう。何も買えんじゃん。と言うことなので、プリペイドカードにお金をチャージして、買い物をする。こうすると管理費は払わないですむ。プリペイドカードが分からん人は、交通系ICカードの病院内版と考えるとイメージしやすいだろう。
プリカをはじめ、時計や指輪など貴重品の持ち込みは表向き不可になっている物が多い。理由は盗難防止。病院には、是非とも警備を厳重にするようお願いしたいが、患者事情で限度があるらしい。認知症などで判断能力が衰えている人もいるし、他にも、そもそも障がいで自他の物の区別などついていない人もいる。なもんで、勝手に部屋に入って来るわ、棚を開けられるわ、そして取って行くわ、もうてんやわんやである。そんな人が何人もいるのだから、貴重品は持ってこないに越したことはないし、もし持ってくるなら鍵付きの小さな引き出しに入れることだ。まぁ、そうなるとどうしても必要最小限に、しかも、大きさも小さく、薄くなる。案外、家の方が安全かもしれない。
貴重品ついでに、かなり特殊な立ち位置の物を紹介しよう。それはスマートフォンだ。何とスマホは持ち込み禁止である。ならば、タブレットやスマートウォッチなら良いのかと言うとそんなわけない。外部と通信できる物はすべてダメ。なので、パソコンもガラケーも持って入れない。これでは、面白い動画も、推しの活動も、今、話題の流行りも見ることができない! 若者には苦行でしかなかろう。おっと、失礼。決めつけはよくない。年を重ねた人でもスマホ依存にはなるし、若くても適切に使ってる者もいる。それに、最近はデジタルデトックスと言って、ネットから離れた暮らしを心がける活動も流行っていると聞く。人によっては数日間、自然の中でデジタル機器を使わず、ゆっくりとした時間を過ごす、なんてこともあるようだ。まぁ、何とも殊勝な心掛けだ。
だが、サンロクは白を基調とした壁に囲まれた閉鎖空間。しかも我輩の場合、二ヶ月にも及ぶ入院生活、すなわちデジタルデトックスだ。先に述べた自然での生活も数日から1週間程度らしいから、その差は歴然である。一応、サンロクの大広間にテレビや新聞はあったので、オリンピックが終わったり、パラリンピックが開かれたり、あるいは総理が次期総裁にならないだとか地震や台風が日本を襲っただとかは知っている。だが、しかし、一動画配信者なんて取り出されることはなく、気が付いた時には不祥事で引退、なんてこともあり得る時間をサンロクで過ごした。流石に、我輩も全くない情報には少々ヤキモキしたものだ。まったく、ジョーが無事で何より。
とまぁ、外界と切り離された生活を送っていたわけだが、個人的にはもう1つ弊害があった。それは、小説が書けないことだ!! 紙とペンがあれば書けると言われている小説だが、世はデジタル化。ラノベ新人賞も電子データをWeb投稿だし、この『カクヨム』なんて電子情報しか存在しない。これでは、応募も投稿も、いや、そもそも小説が作れない。いつも応募している新人賞も泣く泣く見送るしかなかった。(余談だが、この体験談はサンロクの出来事をメモしておいたもの文章化し、パソコンでせっせと入力している。いつもよりかかる労力と時間が倍以上だ。)
と、つらつらと恨み言を述べてしまったが、一応、病院の名誉のために言うが、スマホは病棟内には持ち込む事はできる。と言うのも、ナースステーションで預かるものとして、どちらかと言うと没収に近いが持ち込める。だがまぁ、病室では使えないし、充電も出来ない環境だ。退院時に返してもらう以外、ほとんど役割はない。
とまぁ、色々書いたが、旅行に行くのと違って、色々持ち込めないのがサンロクである。じゃぁ何だったら持ち込めるのかと言われれば、我輩が実際に持ち込んだものは菓子と本ぐらいか。その他、あったら便利だったものは食事の時に使う箸やスプーン。何故かナイフやフォークは危険だから持ち込めないが、先に述べた2つはOKだ。特に、スプーンはメインディッシュとデザート用の2つ用意してあると、たいへん助かったものだ。カレーとオレンジゼリーを同じスプーンで食えるか!
それ以外に良かったものと言えば、テレフォンカードか。サンロクの大広間の隅に緑の公衆電話が一台置いてあるのだが、これが生命線となる。家族やほうぼうの知り合いと会話できる唯一の手段であり、入院中に必要な物や退院の決め事など伝える事は数多い。そのため、公衆電話を使うのだが、まぁ、有料だし、しかも硬貨は使えない仕様になっている物だから、テレカを使うしかない。院内の売店で売っていたので、もし、サンロクに入ることがあるようなら、先に手に入れておくと良いだろう。
思い出や苦難も語った章になったが、まぁ、とにかく、持ち込み禁止物が多くて、少々困ることも多い環境下に陥ることを知っていただけたのなら幸いである。そして、小説を書ける喜びを改めて噛みしめながら、この章を終えようと思う。
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