第18話 【MOVIE5】カニの形のツインテール

 家に着くと、真衣が泣きながら『にーに!心配したんですよ~』と抱きついて来た。


 妹に心配されるのはやはり良いものだな。と喜ぶ俺だったが、プール行くと告げた途端、真衣はいきなり目をキラキラさせて『真衣も連れて行ってほしいのです~』と騒ぎ始めた。


 ――その結果。


「にーにーとプール楽しみです~」


「そう思ってられんのは今のうちだぞ」


 ……これから真衣は地獄を見ることになるだろう。


【MOVIE5】


 俺と真衣は近所の区民プールの入り口へと到着した。

 辺りを見渡したが、藍那は見当たらない。

 まだ来てないのだろうか。


 代わりに、でっかい日傘をさした小柄な人が立っていた。


 俺の方から見て傘をバックにしているので、はっきりとした姿は分からないが、長いニーソとスカートが目に映った。


 なんだか、その傘に、その後ろ姿に、見覚えがある気がする。





 と、何だか聞き覚えのある声が。


 周りに藍那が見当たらないという点から、通話をしているのか?

 この人も藍那にこき使われるのだろうか……?


 なんて考えていると、クルッとターンしてこちらを向いた。


 150cmくらいの背丈。

 前へと伸びる触覚のようなツインテール。

 先端がカニのようなハサミ状になっていて、両サイドもカニの足のようにロールされている特殊すぎる髪型。

 特徴的な麻呂眉に、


 俺は、この格好を、この姿を、知っている!!



「それ、餡子あんこの真似か!?」



 気づけば、俺は目の前の少女に話しかけていた。



などでは無い。 “我は正真正銘のカニ崎餡子さきあんこだ!”」



「……なっ!?」



 その声は!


 俺のかつての推しキャラ、『妬いてるシスターシンデレラジャンヌ』の『カニ崎餡子さきあんこ』のものだった。

 見てくれだけならともかく、声まで二次元のキャラと一緒なんてあり得るか!?



「夢じゃ、無いんだよな?」



「だから言っただろう、我は餡子あんこだと」



 手で片方のハサミを払う少女。



「……いや、ですよね!?」

 と真衣の声。



「誰だ貴様! なぜ我の真名まな(まな)を知っている!?」



「同じクラスの舞浜真衣まいはままいですよ~」



「なるほど、わからぬ!」



「覚えてもらって無いのですか~>< かなしーです」

 どうやら真衣の同級生らしい。



 ……キヌエ?


 どっかで聞いた気が。


 ……ああ!



「キヌエちゃんってもしかして、デレジャンやってる?」


「やってるが。 それがどうかしたか?」


「毎回ランキングで一位とってる『キヌエェ!』ってキヌエちゃん?」


「如何にも。 そうだが、何故分かった。」


 マジかよ。


「実は、俺もちょっと前までデレジャンやってたんだ。 ランキングで、「マイハマー」って見たことないか?」


「あー! あの、昼間にやたらポイント稼ぐ『マイハマー』か!」

「そうそう!」


 ……トッププレイヤーに認知されていたのが嬉しい。


 授業ふかして、屋上でやってた甲斐あったぜ。


「貴様がランキングに顔だしたのは第二回の『触らぬ蟹に挟み無し』辺りだったか?」

「あのイベが初だった! 当時はSSRの排出率低くて艦隊組めなかったんだよなー」



「にーに、



 と、真衣に会話を遮られた。


 傍から見たらキモいこと言ってたんだろうな、俺。


「ごめん」


 久しぶりのデレジャン話に盛り上がってしまった。

 全部、捨てたつもりだったのに。


 話題をデレジャンから引き離して、真衣も分かる会話にしなければ……。



「あのさ、キヌエちゃんは学校でも餡子あんこの真似してるの?」



「これは真似ではない! だ!」



「「……?」」




じゃなくてそれはって言うんですよ」




「遅いぞ、藍那! ……それと、久しぶりだなー、間切こも




!? あんたより登録者50万人は多いんですケド?」



「そいつらはアクティブじゃ無いだろうが! 上昇率じゃ我のほうが上だ!」


 ──バチバチ──


 ……なんで間切のやつが居るんだ。



「悪い、俺帰るわ」



 そう言ったら、間切が俺の方へ振り向いた。



「ちょっと、藍那! 何でこいつがいんの!?」



 俺だって……居たくているんじゃねえよ。



「ボクが呼んだんです。 散々こき使ったのでご褒美あげようと思って……」


「俺、居たら迷惑そうだし帰るわ」


 今すぐここから逃げ出したい。帰りたい。

 気持ち的にも、理屈の話でも。


「行くぞ、真衣」



 がしっ。



 背を向けた俺は手を掴まれた。



「……真衣。ここじゃなくても、プールなら浦安のとこにでm――――」



 ──ぎゅっ。



 って感触で分かった。



 振り返ると、俺の手を掴んでたのは真衣ではなく――――



「……居て、いい」



「は?」



「ていうか、居て。 居て……ほしい」



「……お前それ、言ってる意味分かってんの?」



「分かってる。 分かってなきゃこんなこと言わない」



 真剣そうな瞳を浮かべる間切。



「……分かってねえよ。 俺とお前が、プールにいるとこなんてまた盗撮されたら、せっかく沈下させた炎上がまた燃え上がるだろ」



「あたしが言いたいのは、そういうことじゃ――」







 藍那は言った。



「いや、大丈夫じゃねえだろ。 俺はもう、前みたいなのはごめんだ」


「前みたいなことにはならないです。


 何の根拠があってそんなこと言えんだよ。



「だって、。プール」



「―――――へ?」

――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント秘話


作者「キヌエのハサミ状のツインテールからはカニの匂いがする」


キヌエ「なわけなかろうが!!我は香りプロフーモは厳選する派だ!」


「キヌエのハサミツインテールはセット大変そう」「区民プール貸し切りっていくらするんだろう」「読者はキヌエの匂いが知りたい!!」

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