第12話 【MOVIE3】しゅきしゅき砲

……あの女。


いざとなったら泣き喚きやがって。これじゃ俺が悪者みたいじゃんか。


ああ、しごく、すごく、すこぶる、気分わりい。


あんなん見せられたら……何とかしなくちゃいけなくなるだろ。




教室に戻って室内を見渡すも、間切の姿は見当たらなかった。


「おっ、おかえり王子様!」「お姫様はどうした~?」


そんなヤジ共の鳴き声のおかげもあってか、その後の授業には全く集中できなかった。


時間は移ろいで放課後。


俺はチャイムが鳴ってすぐ、藍那に話しかけた。




「藍那、付き合ってくれ。」




「ゆ、結人くん!? そういうのはTPOを弁えてほしいのですが!?」


……TPO?→トッポ?


なんでお菓子の話?


どっちかつうと俺は――――


「いや、俺はポッキーがいい!」


「ポッキー!? そういうゲームは愛を深めてからでしょ!!」


なぜか、手をモジモジさせる藍那。


「……どうして、結人くんはポッキーがしたいんですか?」


……したい? 食いたいってことか?


「あの舌触りが好きなんだよ!」


チョコとクッキーの間を舌でなぞるのがいいんだよな。


「舌触り!? 大人のキスはもっとダメですよっ!!」


「何言ってんだ? 歩きながら話そうぜ。」


「ボ、ボク、まだ心の準備が……。」






俺と藍那は一緒に校門を出て歩き始めた。


「単刀直入に言う、間切を助けたい。協力してくれ。」


「はぁっ…。」


ため息をつき、腰を落とす藍那。


「……そういうことでしたか。ボク、てっきり……。」


「てっきり?」


「な、なんでもないです! そんなことよりもも様を助けたいってどういうことですか?」


「間切がユーチューバーをやめた原因が俺にあるなら、責任を果たしたい。なんでもいいから知ってること教えてくれないか。」


「……その件なんですが。」




藍那が「場所を変えましょうか。」と言って、俺と藍那は近所の公園のベンチに腰掛けた。


「もも様がユーチューバーをやめたとか噂だってる話ですが……」


「うん」


「まぁ、結人くんのせいです。」


「やっぱし!?」


「やっぱしですよ、自分でもこうなることは分かっていたんでしょう?」


「いや、わかんなかったけど」


「“は……?”」


いつもの藍那の声からは想像もつかない低いドブ声で、そう言われた。


「大体、間切になんであんな噂だってるかすらわかんねーし。」


…………………………。


「……結人くんがもも様のファンを煽る動画をアップしたからに決まってるじゃないですか」


「あいつのファンをからかったからって、間切がユーチューバーやめる理由にはならなくないか?」


「なります。ってか、なってます。」


「結果だけ唐突に言われても分からないんだけど……」


「端的に言って、結人くんの炎上が飛び火したんですよ。」


「全く分からない……。端折りたいとこ悪いんだけど、端的に言わないでくれ。」


「それはそれで、説明が面倒なんですが……。メディアは、人間は、自分の興味のある方に目が向いてしまうってことです」


「う、うん。というと?」


「例えば、○ンパンマンが人を殺したとします。」


……ん、ん!?


「この時、視聴者の注目は、○ンパンマンと殺された人、どちらに向くと思いますか?」


そんな『○ンパンマン』見たくねえよ!


「あーもう、言いたいことは大体わかった。無名な俺よりも、固定ファンの多い間切に人の興味が向いたってことか。」


「そうです。これ、見てください」


藍那は自分のスマホを取り出すと青いアプリを開いて俺にみせてきた。


「これは何だ?」


「もも様のtwitterです。」


藍那のスマホに視線を逸らすと、そこにはどっかで見たような言葉が書き綴られていた。




“消えろ!このビッチ”


“4ね!このあばずれ女!“


“キス動画でコモニーなう♡♡(手についた○ーメンの写真つき)”




……ひでーな、こりゃ。昨日見た時もひどかったけど、今日のは格別だ。


「つまり、こいつらのせいで間切は炎上しちまったってことか」


「大体そんな感じです。他にも理由はありますが……。」


……まだあるのかよ。


「他にもって?」




「しゅきしゅき」


藍那が俺を上目で見つめてきた。


「なっ!?」


「しゅきしゅき砲って知ってますか?」


「……しゅきしゅき砲?」


「しゅきしゅき砲、別名すきすき砲。Youtubeの動画に低評価を自動で押し続けるソフトのことです。」


あーね。低評価ソフトね。


分かってたのにドキっときちまった。


「それがどうかしたのか?」


「そのソフトが悪用されて、もも様の動画に大量の低評価が押されてしまったんです。」


「低評価が押されると何か問題あるのか? 低評価が多い動画でも問題なく再生出来た気がするぞ。」


「はい、動画の再生自体には問題はないんです。」


「じゃあ何がダメなんだ?」


「低評価が多いとやっぱり印象悪くなるじゃないですか。そうすると企業案件が来なくなってしまうんです。」


「……企業案件? なんだそりゃ。」


「広告収入とは別に、企業がユーチューバーにお金を払って商品紹介してもらうことを企業案件と言うんです。」


……あぁ。


そういえば、いつか間切の動画を見た時もへんてこなグッズを紹介していた覚えがある。


「要するに、俺が火を放ったせいでファンから激怒された上、もらえる金も大幅ダウンしちまったってことか。」


「はい……。だから現状、もも様は動画投稿も出来ない状況で、噂が一人歩きしていて……。」


ポツンと、藍那はそう言った。


なんだよ。間切は何にも悪くないじゃん。


昨日、あいつの動画を見た時は楽しそうで、間切自身もやってて楽しいて言ってて。


間切は世界一のユーチューバーになるって夢が、目標があって。


それなのに、俺何かを助けたせいで、俺があいつのファンを煽ったせいで。


……あいつの日常を、俺はめちゃくちゃにしてしまったんじゃんか。




他人の人生をめちゃくちゃにしてトンズラするなんて、俺は絶対したくない。


だから、俺はこの火を消したい。いや、消す。




「あのさ、炎上を止める方法ってないのか?」


「……炎上を止める方法ですか。最近、youtubeで炎上する人が多いのですが、その人たちは大抵謝罪動画を投稿していますね。」


「……謝罪動画か。分かった。」








俺は帰宅するとyoutubeを開き、謝罪動画を探し始めた。


検索するとユーチューバーの謝罪動画は何個も見つかったので、片っ端から再生した。




(数分後……)




動画を見終わった俺は正直、恐怖を感じた。


三股? 暴力団? 詐欺?


youtubeってヤバイ奴の巣窟なの?




謝罪動画を一通り見た感じ、どの動画もほぼ無編集で作られていた。


「これなら俺でも作れそうだな。」


俺は撮影を開始した。




「みなさん、こんにちは。ユーチューバーである間切こももさんが炎上してしまった発端であるキス動画ですが、動画内で彼女にキスをされているのは僕です。


どうしてあんなことになってしまったのかというと、僕の勤めていたスーパーの店長を間切さんが煽っt……」


って! あいつの印象を余計悪くするようなこと言っちゃダメじゃん。




【take 2】


「みなさん、こんにちは。ユーチューバーである間切こももさんが炎上してしまった発端であるキス動画ですが、動画内で彼女にキスをされているのは僕です。


どうしてあんなことになってしまったのかというと、間切さんが僕の勤めていたスーパーの店長に私が給料未払いさせられそうになった処を助けようとして店長に立ち向かったのですが、店長が逆ギレしてしまい間切さんが店長に暴行されてしまいました。


お店の安全のために僕は店長に立ち向かいましたが、返り討ちにあってしまいました。


返り討ちにあってしまったボクは気絶してしまいました。


気絶している間、意識が無かったので確信は持てませんがおそらく呼吸困難でした。


そんな生命的危機に陥った僕を間切さんは身体を張って助けてくれました。


おかげで僕は意識が戻り、今ここにいられます。


彼女に感謝してもしきれないぐらいです。


これがあの事件の真実です。


それなのに、僕は彼女の知名度を使い、ファンの人たちを煽って、お金儲けをしようとしました。


僕はとんでもないクズ人間です。


彼女は悪くなくて、悪いのは全て僕です。


どうか彼女を許してあげてください。


(深々と頭を下げて土下座)」




完璧じゃね!?











翌朝。




<ピピッ>


目覚まし時計の音が耳に響き渡る。


目を覚ますと朝の日差しが眼に差し込んだ。


「ねみぃなぁ…。」


俺は朝起きてからすぐにパソコンの電源を入れて、youtubeの自分のチャンネルを開いた。


(……謝罪動画はどうなったかな。間切のファンの人たち、許してくれるかな。)


なんと! 俺が昨日、投稿した謝罪動画の再生数は…。




0だった。




……流石に再生数0はヘコみますねぇ。


一体、何が足りんかったんでしょうねぇ……。不思議ですねぇ……。

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