第11話 【MOVIE3】炎上を利用

【MOVIE3】




ピピッと目覚まし時計がなって、俺は目を覚ます。


普段ならすぐに洗顔と歯磨きをするとこだが、そんなことお構いなしに、俺はパソコンでyoutubeを開く不潔ムーブをしていた。


何故そんなことをしてるかって?


昨日、youtubeに初投稿した動画がどうなったかチェックするためだ。


……なんと、俺が昨日投稿した動画の再生数は!




たったの1回だった。




なーにが『炎上を利用しなさい』だよ。


全然ダメじゃん。


ユーチューバー熱が一気に冷めた俺は、普段通りの支度して学校へと向かった。











教室の扉を開くと、また間切こももの周りに人が集まっていた。




「間切さん、ユーチューバー辞めたってほんと?」




―――――は?


間切がユーチューバーを辞めた? どういうことだ?


「え、えっと。」


間切は戸惑ってるように見えた。


「やめてください、もも様g……。」




<ドンッ>


「邪魔なんだよ、子供は引っ込んでな」


止めに入ろうとした藍那が突き飛ばされる。


「うぅ。痛いよぉ」


「大丈夫か藍那。」


俺は藍那の元に駆け寄り、手を差し出した。


「ボクのことはいいですからもも様を助けてあげてください!」


藍那の表情はとても真剣そうに、俺の瞳に映った。


……助けるつってもな。


「この前みたいに音と煙でなんとか出来ないの?」


「今、切らしてて。だから、結人くん、はやくもも様を!」


俺にどうしろつーんだよ。




何があったのか知らないが、間切には、こんなところでくたばってもらっては困る。


これから俺が散々利用してやる存在なのだから。


だから、助けに動くべきとは思ったが、特に案が浮かばなかったから、とりあいず自分の席に座って様子を見ることにした。


……が。


俺の席は間切こももの前の席だったので、メスヤジウマの一匹に座られていた。


椅子じゃなくて机に。しかも、土足で。




その光景を見てると、すげー気分悪くなった。


『居座るのは自分の椅子だけにしろ。』とダジャレを言いたいのを堪えつつ、俺は自分の席に居座るメスヤジウマに声をかけた。




「あのさ、そこ俺の席だからどいてくんね?」


「あー、ごめn……って! お前、今youtubeで話題になってるやつじゃんwww ウチの学校だったのww」


きったねえ声。


声も驚きだったが、一番の驚きはあの『キス動画』で間切にキスされてるのが俺だとこいつが知っていたことだった。


なぜなら、盗撮されたあの動画は現場から若干遠くから撮られている上に、ピントは間切にばかり合っていて、俺の顔だと判断される可能性は低いと思っていたからだ。


「あの動画、かなり距離あったのによく俺だって分かったな。」


「はw 距離なんて全然無いじゃんww お前、頭イカれてるけど、目もかよww」


「頭イカれてるのはおめーだよ」


早く、俺の机から降りろ。


「いやwお前以上のやつはいねえってww 面白れーわwwこの動画www」


そう言うとヤジウマが自分のスマホをタップして、俺にスマホを向けてきた。


「……なっ!?」




そこには、例の『キス動画』ではなく、俺が昨日投稿した間切のファンを煽る動画が映っていた。


しかも。




再生数が100万を超えていた。




なーんだ。


youtubeも気まぐれなやつだな、今朝まで1再生だったのに。


これで俺もユーチューバーの仲間入りだぜ!


嬉しさで俺は、広告ってどうやってつけんのかな?とか、幾らお金もらえるのかな?とか、入った金で何買おうかな?とか。色々妄想した。




「何そんなビビッてんだよww自分でアップした動画だろww」


「いや、なんつーか、嬉しくてな。」


「お前は嬉しくても、間切さんのファンは激おこだよww ほらwコメント見てみろよww」


ヤジウマが自分のスマホを俺に手渡してきた。




俺はその時、現実を、知った。




ヤジウマが見せてきたコメントは、動画は、俺のチャンネルのものでは無かった。


動画が投稿されているチャンネル名は” ているん♪”だった。


すぐさま、自分のスマホでyoutubeにログインして自分のチャンネルを見たが、再生数は相変わらずの1。


どんな手品を使ったのか知らないが、” ているん♪”は、俺が昨日投稿した動画と全く同じ動画を投稿してやがった。




「まーた、こいつなのか……」


「はw何言ってんのww」


「……もういい」


俺は目の前のヤジウマにスマホを返すと、自分の席へ座った。


「ちょっw 見えるじゃんww」


そう言うと、前のヤジウマは俺の机から降りる。


なんだか知らんが、やっと俺は自分の席を取り戻せた。


精神的にキタので、俺は頭を伏せて机にふて寝を始めた。


俺の机は汚れていたが、もうどうでもよく思えた。




「おいwどうしたんだよwさっきの笑顔はどうしたww」


……うっせえ。引っ込めブス。


そのあとも何度か話しかけられたが、腹いせに全部シカトしてやった。




ヤジウマの足音が数歩聞こえて、声をあげた。




「間切さんがユーチューバーやめたってうわさwこいつのせいw?」


……こいつ?


こいつって……まさか俺じゃねえよな?


「いや、こいつっしょ。こいつ以外にありえる?」


あーもう、気になって仕方ねえよ!


目を見開いて起き上がると、キンパツインテ豚が俺を指差していて、周りのエセヤンキーみたいな奴らにむっちゃジロジロ見られた。


「間切さん、どうなの?」


                                            




――間切に集る生徒がどんどん増えてきた。




「はぁ?」「ノリ悪」「つまんな」


「教えろ!」「教えろ!」「教えろ!」


「いい加減答えたら?」




「……ごめん。答えられない。」


ごめん!? あの間切が!? 


しかも……よく見るとなんで、目がうるうるしてんだよ。








「おい、行くぞ。」


流石に見ていられなくなった俺は間切に声をかけた。


「行くってどこに!? あと数分でホームルーム始まるんだけど?」


「うわーなにお前」


「白馬の王子様気取り?」


白馬の王子様? そんなんじゃねえよ。


「いいから行くぞ。」


俺は間切の手を取ると教室を飛び出した。


「……どこ行くつもり?」


間切が不安そうな面で見つめてきた。


「すぐ分かるよ」


俺は間切の手を引くと階段を駆け登った。




「着いたぞ。屋上だ。」


――屋上の扉前に俺たちは到着した。


「屋上……? 屋上の扉の前じゃん。」


そう。屋上には鍵がかかっていた。


「ところがぎっちょん!」


俺は屋上の鍵を取り出した。


「えっ、普通、屋上の鍵なんて生徒が持てないでしょ? なんであんたが持ってんの!?」


「細けえことは気にすんなって」


実は去年、大掃除の当番で屋上の鍵を借りた時に『コンビニに行く!』とか適当に理由つけて校外に出て合鍵を作ってきた。


高校といえば屋上に誰もが憧れるだろ?


人生でたった三年間しかない高校生活だ。 楽しまないでどうする。


……楽しめてねーけど。




<ガチャ>


屋上の鍵を開け、中に入ると煌めく太陽が俺たちを照らした。


「こっちだ。」


俺は間切の手を引き、屋上の端にある四角い建物のハシゴを登った。


外を見渡すと、自然豊かな公園や巨大ショッピングモール、江戸川やスカイツリーが一望出来た。その風景は色々なものが調和し合って綺麗だ。






「どーしてあんた、あの動画あげたわけ!?」


間切が目をうるうるさせて、ちょっぴりおこりっぽくそう言った。こいつ、結構泣き虫なとこあるよなぁ……。


「いや、だって、お前が炎上を利用しろって!」


「あんたの……あんたのせいで! あたしは……大迷惑してんだけど……!!」


ポロッと、間切の瞳から涙がこぼれ落ちた。


「はぁ? お前がやれって言ったんだろ!」


「そっちの方面じゃなくったってよかったでしょ!! もう……後には引けないけど……」


……何言ってんだ?


「そっちの方面以外に、どっちの方面があんだよ」


「あたしを助けたヒーローだって、そういう言い方だってできたじゃない!」


あぁ……。たしかに。


……仮に分かってたって、実行していたかと言えば恥ずかしくて出来たもんじゃないが。


「お前のヒーローなんざごめんだね、妄想が過ぎんだろ。はっきり言って気持ち悪い。」


その言ったら、間切の顔がムスッとブスになった。


「……あたしだってあんたみたいなクズ、ごめんだし!」


涙をポロリするその姿に、不覚にもズキリと来てしまった。


「はぁ? てめえにクズなんて言う権利無いだろ」


そう言い返した俺を無視して、間切はプイッと後ろを向いた。


「あたし、帰る。」


「……じゃあな」


ハシゴを降りるときに、こっちを向いた間切は……複雑そうな面で、その表情が俺の眼球に焼き付いてしまった。

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