第11話 【MOVIE3】炎上の向かう先は
【MOVIE3】
ピピッと目覚まし時計がなって、俺は目を覚ます。
普段ならすぐに洗顔と歯磨きをするとこだが、
そんなことお構いなしに、俺はパソコンでYouTubeを開く不潔ムーブをしていた。
何故そんなことをしてるかって?
昨日、YouTubeに初投稿した動画がどうなったかチェックするためだ。
……なんと、俺が昨日投稿した動画の再生数は!
たったの1回だった。
なーにが『炎上を利用しなさい』だよ。
全然ダメじゃん。
YouTube熱が一気に冷めた俺は、普段通りの支度して学校へと向かった。
* * * * * * *
教室の扉を開くと、また間切こももの周りに人が集まっていた。
「間切さん、YouTuber辞めたってほんと?」
は?
間切がYouTuberを辞めた?
どういうことだ?
「え、えっと」
間切は戸惑ってるように見える。
「やめてください、もも様g……」
ドンッ
「邪魔なんだよ。
止めに入ろうとした藍那が突き飛ばされる。
「うぅ。痛いよぉ」
「大丈夫か藍那」
俺は藍那の元に駆け寄り、手を差し出した。
「ボクのことはいいですからもも様を助けてあげてください!」
藍那の表情はとても真剣そうに、俺の瞳に映った。
……助けるつってもな。
「この前みたいに音と煙でなんとか出来ないの?」
「今、切らしてて。だから、結人くん、はやくもも様を!」
俺にどうしろつーんだよ。
何があったのか知らないが、間切には、こんなところでくたばってもらっては困る。
これから俺が散々利用してやる存在なのだから。
だから、助けに動くべきとは思ったが、
特に案が浮かばなかったので、
とりあいず自分の席に座って様子を見ることにした。
……が。
俺の席は間切こももの前の席だったので、メスヤジウマの一匹に座られていた。
椅子じゃなくて机に。しかも、土足で。
その光景を見てると、すげー気分悪くなった。
『居座るのは自分の椅子だけにしろ』とダジャレを言いたいのを堪えつつ、俺は自分の席に居座るメスヤジウマに声をかけた。
「あのさ、そこ俺の席だからどいてくんね?」
「あー、ごめn……って! お前、今YouTubeで話題になってるやつじゃんw ウチの学校だったのw」
きったねえ声。
声も驚きだったが、一番の驚きはあの『キス動画』で間切にキスされてるのが俺だとこいつが知っていたことだった。
なぜなら、盗撮されたあの動画は現場から若干遠くから撮られている上に、ピントは間切にばかり合っていて、俺の顔だと判断される可能性は低いと思っていたからだ。
「あの動画、かなり距離あったのによく俺だって分かったな」
「距離なんて全然無いじゃんww お前、頭イカれてるけど、目もかよw」
「頭イカれてるのはおめーだよ」
早く俺の机から降りろ。
「いやwお前以上のやつはいねえってw 面白れーわwwこの動画w」
そう言うとヤジウマが自分のスマホをタップして、俺にスマホを向けてきた。
「……なっ!?」
そこには、例の『キス動画』ではなく、俺が昨日投稿した間切のファンを煽る動画が映っていた。
しかも。
再生数が100万を超えていた。
なーんだ。
YouTubeも気まぐれなやつだな、今朝まで1再生だったのに。
これで俺もYouTubeの仲間入りだぜ!!
嬉しさで俺は、広告ってどうやってつけんのかな?とか
幾らお金もらえるのかな?とか
入った金で何買おうかな?とか。
色々妄想した。
「何そんなビビッてんだよw 自分でアップした動画だろw」
「いや、なんつーか、嬉しくてな」
「お前は嬉しくても、間切さんのファンは激おこだよw ほらwコメント見てみろよw」
ヤジウマが自分のスマホを俺に手渡してきた。
俺はその時、現実を、知った。
ヤジウマが見せてきたコメントは、動画は、俺のチャンネルのものでは無かった。
動画が投稿されているチャンネル名は” ているん♪”だった。
すぐさま、自分のスマホでYouTubeにログインして自分のチャンネルを見たが、再生数は相変わらずの1。
どんな手品を使ったのか知らないが、” ているん♪”は、俺が昨日投稿した動画と全く同じ動画を投稿してやがった。
「まーた、こいつなのか……」
「はw何言ってんの」
「……もういい」
俺は目の前のヤジウマにスマホを返すと自分の席へ座った。
「ちょっw 見えるじゃんww」
そう言うと前のヤジウマは俺の机から降りる。
なんだか知らんが、やっと俺は自分の席を取り戻せた。
精神的にキタので、俺は頭を伏せて机にふて寝を始めた。
俺の机は汚れていたが、もうどうでもよく思えた。
「おいwどうしたんだよwさっきの笑顔はどうしたw」
……うっせえ。引っ込めブス。
その後も何度か話しかけられたが、腹いせに全部シカトしてやった。
ヤジウマの足音が数歩聞こえて声をあげた。
「間切さんがYouTuberやめたってうわさwこいつのせいw?」
……こいつ?
こいつって……
「いや、こいつっしょ。
あーもう、気になって仕方ねえよ!
目を見開いて起き上がると、キンパツインテ豚が俺を指差していて、周りのエセヤンキーみたいな奴らにむっちゃジロジロ見られた。
「間切さん、どうなの?」
――間切に集る生徒がどんどん増えてきた。
「はぁ?」「ノリ悪」「つまんな」
「いい加減答えたら?」
「……ごめん。答えられない」
ごめん!? あの間切が!?
しかも……よく見るとなんで、目がうるうるしてんだよ。
「おい、行くぞ」
流石に見ていられなくなった俺は間切に声をかけた。
「行くってどこに!? あと数分でホームルーム始まるんだけど?」
驚いて目を見開く間切こもも。
「うわーなにお前」
「白馬の王子様気取り?」
白馬の王子様? そんなんじゃねえよ。
「いいから行くぞ」
俺は間切の手を取ると教室を飛び出した。
「……どこ行くつもり?」
間切こももが不安そうに俺を見つめてきた。
「すぐ分かるよ」
俺は間切の手を引くと階段を駆け登った。
「着いたぞ。屋上だ」
――屋上の扉前に俺たちは到着した。
「屋上……? 屋上の扉の前じゃん」
そう。屋上には鍵がかかっていた。
「ところがぎっちょん!」
俺は屋上の鍵を取り出した。
「えっ、普通屋上の鍵なんて生徒が持てないでしょ? なんであんたが持ってんの!?」
「細けえことは気にすんなって」
実は去年、大掃除の当番で屋上の鍵を借りた時に『コンビニに行く!』とか適当に理由つけて校外に出て合鍵を作ってきた。
高校といえば屋上に誰もが憧れるだろ?
人生でたった三年間しかない高校生活だ。 楽しまないでどうする。
……楽しめてねーけど。
ガチャ
屋上の鍵を開け、中に入ると煌めく太陽が俺たちを照らした。
「こっちだ」
俺は間切の手を引き、屋上の端にある四角い建物のハシゴを登った。
外を見渡すと自然豊かな公園や巨大なショッピングモール、江戸川やスカイツリーが一望出来た。その風景は色々なものが調和し合って綺麗だ。
「どうしてあんた、あの動画あげたわけ!?」
間切が目をうるうるさせて、ちょっぴりおこりっぽくそう言った。
こいつ、結構泣き虫なとこあるよなぁ……。
「いや、だって、お前が炎上を利用しろって!」
「あんたの……あんたのせいで! あたしは……大迷惑してんだけど……!!」
ポロッと、間切の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「はぁ? お前がやれって言ったんだろ!」
「そっちの方面じゃなくったってよかったでしょ!! もう……後には引けないけど……」
何言ってんだ?
「そっちの方面以外に、どっちの方面があんだよ」
「あたしを助けたヒーローだって、そういう言い方だってできたじゃない!」
あぁ……。たしかに。
仮に分かってたって、実行していたかと言えば恥ずかしくて出来たもんじゃないが。
「お前のヒーローなんざごめんだね。妄想が過ぎんだろ。はっきり言って気持ち悪い」
そう言ったら、間切の顔がムスッとした。
「……あたしだってあんたみたいなクズ、ごめんだし!」
涙をポロリするその姿に、不覚にもズキリと来てしまった。
「はぁ? てめえにクズなんて言う権利無いだろ」
そう言い返した俺を無視して、間切はプイッと後ろを向いた。
「あたし、帰る」
「……じゃあな」
ハシゴを降りるときに、こっちを向いた間切は……
複雑そうな面で、その表情が俺の眼球に焼き付いてしまった。
――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント秘話
作者「こももは結人をヒーローに仕立て上げたいって心が幼い。ついでに胸も」
こ「うっるさい!!ついでは関係無いし!!」
「こももいつも泣いてんな」「屋上の合鍵作っときゃ良かった」「読者も炎上して有名になる機会欲しい!!」
と思った方は、フォロー、★評価をよろしくお願いします。
どれも感謝ですが、評価、フォロー、応援の順で嬉しいです。
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まだ押してないよ! めんどいんだよ!
https://kakuyomu.jp/works/16818093086100014766
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