第5話 【MOVIE1】必要なのは自信じゃなくてあんた自身でしょ
「……ユーチューバー? それってムカキンとかまじめしゃちょーのあれか!?」
「ええ、そーよ。」
アホかこいつ。
「あんなので食えていける人なんて早々いないだろ。」
「いるわよ。ここに。」
は?
このバカ女がユーチューバー?
……嘘だろ?
そうだ。きっと嘘に違いない。
こいつのことだから、かまってほしくて見栄を貼っているのだろう。
「そうかよ、間切さんはユーチューバーなんだな、すげー!」
呆れた俺は棒読み気味にそう言った。
「実際、すごいよ。収入もあんたのバイトとは比べ物にならないぐらいにね。」
信じられないならyoutubeで「こももちゃんねるっ!」で検索してみなさいよ。」
うそくさ。んなわけねえじゃん。
俺が汗水垂らして働いてる間にyoutubeで楽して俺以上に稼いでる?
そんなことあってたまるかよ。
そう思った俺は自分のスマホを取り出した。
(youtube「こももちゃんねる」っと。)
すぐにそれらしきチャンネルが見つかった。
「チャンネル登録者107万? 最新動画の再生数200万!? ……嘘だろ?」
「嘘なわけないじゃない。信じられないなら動画を再生してみなさいよ。」
言われるがままに最新動画を開くと数秒の広告が流れ、動画の再生が始まった。
「―――――っ!?」
そこには紛れもない間切こももの姿が映っていた。
『おはようつべっ!デデン(和太鼓のSEが流れる)』
『今日は、この全長10Mストローでドラえもん型ストロー作っていきまーす!』
……ドラえもん型ストロー作ってる暇あったら、ドラえもん自体を作ってくれ。
「お前、このくだらない動画でいくらもらってんの?」
「……くだらない?」
ジト目で俺を睨む間切。
「ほ、ほら、くだらないとさがらないは同じ漢字で書けるだろ。下らないってことは、逆に言えば再生数は上がり続けてるわけで……。」
「その苦しい言い訳のほうがくだらないんですケド?(送り仮名違うし。)」
「んなことねーって! 200万再生なんてすげーじゃん」
「……そういうことにしといたゲル。」
と、言うと間切が「収益のことだけど」と小口を挟んだ。
「大体、一再生で0.1円程度の収益だから200万再生なら20万くらい? 正確にはアナリティクス見ないと分かんないけどね。」
「20万!? こんなんで!?」
「これでスーパー美少女、こももちゃんの偉大さが分かってもらえた?」
…………。
「すげー悔しいけど、間切、お前のすごさはわかった。」
「でもさ、これはお前だ。俺じゃない。悪いけど、こんなの俺には出来る気しないよ。」
「あんたも出来るわよ。」
間切が真剣そうな面を向けてきた。
「んなの無理に決まっt―」
「これ見て。あんたの動画」
俺の口を遮り、間切が自分のスマホを差し出してきた。
「俺、動画なんて投稿したことないぞ?」
「いいから、見て。」
間切はスマホを取り出すと、動画を俺に見せてきた。
タイトルは【間切こももが暴行被害?!】。
動画が再生されると、俺が店長を殴る姿が映りだした。
「なんだこれ、俺じゃん! 再生数200万!?」
「お前、人を勝手に動画のネタに使うなよ」
「あたしじゃないし。その動画あげたの。チャンネル名見てみなさいよ。」
間切のスマホに目を凝らすと、チャンネル名には『ているん♪』と表示されていた。
「『ているん♪』? 誰だこいつ。」
「さぁね。誰かが勝手に撮影したんでしょ。」
……俺には肖像権とか無いのかよ。
間切はなぜか動画を最後まで見せてくれず、スマホをしまいこんでしまった。
「しかもこの動画、広告ついてんの。これアップした人、今頃大儲けでしょーね。」
俺の必死の頑張りが誰かの金稼ぎに使われてるってことか。
「ふざけやがって。捕まえてとっちめてやる。」
「……はぁ。」
呆れたとでも言いたげな面でこちらを見つめる間切。
「あんた、もえてるのにそんなことしたらどーなるか分かんないの?」
「俺がお前みたいなバカ女に萌えるわけねーだろ」
「はっ!? な、何勘違いしてんの? あたしが言ってるのは燃やすほう! 炎上ってこと!」
「……炎上? どういうことだ?」
「簡単に言うとあんた、この動画のおかげでちょっとした有名人なのよ。だから、とっちめたり何かしたらあんたの名前、一生ネットに残るわよ。」
「どうしてんなことに……。」
また、俺と間切の会話に数秒の間が空いた。
「なぁ。大体さ、スーパーの店長殴っただけでこんなに炎上するもんなの?」
「普通はしないでしょーね。ただ、今回はあの場に居合わせた私の存在が大きかった。このスーパー美少女こももちゃんのね!」
「……お前のせいかよ」
「否定はしないわ。私ほどのブランド力があればこのぐらいよゆーよ、余裕!」
間切は偉そうに手を髪にあててはらった。
「誇ることじゃねーよ……どうしてくれんだ」
「だから、せめてもの償いとしてあんたにユーチューバーになることを推めたんじゃない。」
「……言ってる意味が全く分かんねーんだけど?」
「この炎上を利用しなさい。成功すれば生活費どころか一生遊んで暮らせるわよ。」
その言葉を聞いた俺にイナズマの如き衝撃が迸った。
これは底辺人生ある俺に巡ってきた千載一遇の好機チャンスなのでは?
「お前の言いたいことはわかった。だけどさ、それって失敗したらどうなるんだ?」
「失敗を恐れて何も行動をしない人に、成功なんてあるわけないじゃない。」
「必要なのは出来る自信じゃない。やってやる!ってあんた自身でしょ。」
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