第2話 【MOVIE0】底辺フリーターはクビになりました

 この日のバイトは忙しく1時間残業させられて終了した。


「はぁ、疲れたぜ」


 うぜェバカ女には絡まれるし、残業させられるわでバイト人生一疲れた。


「とっととタイムカード切って帰るか」


 そう思って売り場を離れようとしたら店長に声をかけられた。


「あっ、今日はタイムカード切らなくていいよ。


 ――は!?


 ってなんだ。怪しすぎる。


「すみません、どういうことですか?」


「君、高校生だよね? 22時以降勤怠つけたら


 えっ?


「でも、店長から1時間残ってって言ってきましたよね?」


 俺は顔をひそめて店長を見つめた。


「そ、そうだっけ? おじさんもう歳だから忘れちゃった! テヘッ」


 こいつ。ほんま汚い大人やな!


「今日の残業代は出ないってことですか?」

「そういうことになるね。 まっ、君まだ若いしこのぐらいなんくるないさ!」


 なんくるあるわ! 給料未払いのどこがなんくるねェんだ。


 と言ってやりたいけど、ここは


 労働者はいつだって雇用者より下の立場だ。


「お願いします。妹がいるんです。妹のためにお金が必要なんです」


 俺は店長に懇願した。


「その話なら面接した時に聞いたよ。妹ちゃんのために頑張ってるんでしょ。偉いなぁ! でも、それとは別。うちにも予算があるんでね」


 店が回らないから残業頼んだけど払える給料は無いから俺に泣き寝入りしろってことか。


「そこをなんとかお願いします! 今以上に頑張りますから!」


 深々と頭を下げて媚頼んだ。

 俺はボランティアがしたくて残業したんじゃない。

 それに妹のためにもここだけは絶対に譲れないと思った。



「……そう言われてもねぇ。



 パシンッ!



 突如、空気を引き裂くような音が耳に響く。


「頭を上げなさいよ。こんなの下で働く必要なんてない」


 頭を上げるとそこには女の子が立っていた。

 間違いない。

 さっき、俺のことを散々バカ呼ばわりしてきただった。


「このアマ、何しやがる!」


 店長は怒怒顔オコオコガオで口悪い女の子の方へ歩く。


 ゴンッ


 ブチギレた店長は腕を振るって、女の子をふっ飛ばした。


「俺様に喧嘩売ってで帰れると思うんじゃねえぞ!」


 店長は今にも人を殺しそうな面で女の子の胸ぐらを掴む。


「スーパーだけにって?


 女の子は強がってはいるが、表情は明るくない。

 眼球は潤んでいて涙が落ちそうだ。


「んなこと言ってねえだろうが」


 切れた店長は腕を振り上げて女の子めがけて今にも殴りかかろうと再び歩き出す。


 こっちも疲れてるんだけど……

 俺は腕を伸ばし店長の右手を掴んだ。


「店長、この辺にしときませんか。周りのお客様怯えてます」


「るっせえよ」


 ドシャン


 一瞬だった。店長の後ろ蹴りが俺の頭に響く。


 頭から大量の血を吹き出した。

 それでも俺は頭に響く痛みを堪え、女の子の方へ足を足を進める。


「しぶとい野郎だな、バイトの分際でに歯向かってくんじゃねえよ」


 店長は掴んでいる


「っ!?」


 俺は必死に手を伸ばし、なんとか女の子受け止める。


「お、重い」


 両手にがする。


「どこ触ってんのよ!」


 女の子は赤面し、頬を真っ赤に染めた。


「俺だって、お前のちっぱいなんざ触りたくて触ったんじゃねえわ!」

「バカ女っていうなバカ! ていうかちっぱいってなんだし!」


「おいコラ、イチャコラこいてんじゃねえよ」


 店長はこわばった表情で俺たちを睨む。



「イ、イチャコラなんかしてないしっ! 底辺ていへんにはそう見えるわけ?」



 おい余計怒らせるような事言うなよバカ女!



「……なによ? 文句ある?


 店長の形相が無表情になり、俺らの方に向かってゆっくりと足音を立てる。

 これ以上はヤバイと思った俺は非常呼び出しボタンを押した。


「おいアマよく見ればしてんなあ。おじさん。俺様を馬鹿にした分、身体で払って貰おうか」


 店長は女の子を掴みかかり、服を脱がし始めた。



「キャッ!?」



「いい声出せるじゃねえか。俺様を楽しませてくれよなぁ」


 あーあ。店長壊れちゃった。

ってこうも脆いんだろ。


 このバカ女がどうなろうが知ったことじゃないが、こんな事でバイトが無くなったら俺と真衣の生活はどうなる。

住民票なしで出来るバイトは中々無いんだぞ。


 ドッ


 俺は握りこぶしを作ると、店長の顔をぶん殴ってやった。


「なにしやがるっ!?」


 驚いたような表情で俺を睨む店長。


「やめようぜ店長。これ以上はに響くだろ」


 店長の注意を引きつけようと俺は頭を振り絞って精一杯の煽りを言い放った。



 店長渾身の右ストレート。避けられるはずもなかった。


 ゴッ


 鈍い音が頭に響く。

 身体は宙へ浮き、床と衝突して全身に痛みが走った。

 だんだんと意識が遠くなっていくのが自分でも分かる。


 同時にピーポーと聞き慣れたサイレン音が耳に入り、まぶたを開くとおまわりさんに差し押さえられる店長が見えた。


「間に合ったみたいだな」

「間に合ってないわよバカ! ……あんたボロボロじゃない」


 気づけば女の子に手を握られていた。


「どうしたよバカ女。さっきまでの威勢はどこいった?」

「こんな時までバカ言わないでよバカ。これ以上喋んなバカ」


 女の子は涙を浮かべて心配そうに俺を見ている。


「うっせえ、バカって言ったほうがバカなんだぞバk」


 視界が揺らぎ、頭蓋骨を揺らすような耳鳴りが頭の奥に響いた。


 俺、死ぬのかな。死ぬことに恐怖なんざないが、この世界に取り残される妹のことだけが心配で仕方ない。

 そう考えているとだんだんと意識が消え失せていく。


 意識が消えかける直前、が唇に触れた気がした。


(なんだろう。この幸せな舌触り……)


 * * * * * * *


 気づけば、俺は病院のベッドに居た。


「あっ、目が覚めた?」


 部屋を見渡すとそこには見覚えのある女の子が居た。

 どうやら俺はまだくたばらずに済んだらしい。


「おはよう、

「バカっていうなバカ! バカっていうほうがバカなんだかんね!」


 女の子は頬に涙を浮かべながら嬉しそうに答える。

 つーか、どこかで聞いた台詞だな。


「……うして」

「ん?」


「どうして、そんな身体になるまで立ち上がったのよ。あたしなんか無視しとけばよかったじゃない……」


 よく見ると身体中包帯まみれだ。腕には点滴が繋がっている。


「どうしたもこうしたもねぇよ。を守るためなら自分の身ぐらい幾らでも差し出せんだよ」


 あのまま事件にもなったらバイト先潰れちゃうと思ったからな。


「あんた、そんなにあたしのこと……」


 女の子の頬は赤らいでいるように見えた。


「お前、何言ってんの?」

だって言ったじゃん!」


「いや、それは真衣のたm――」


バタン


「にーにー!」


 扉が開いて妹が入ってくる。


「心配したのですよ~ 大丈夫なのですか」


 妹が心配そうな面で俺を見つめてくる。


「大丈夫だ。でも、バイトが無くなっちまった。明らか事件になりそうだったから止めようとしたんだが無理だった。今月結構キツイかも。すまん!」


「そんなのどうでもいいです! にーにーが一番大事です!」


「真衣、俺もお前が一番大事だ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 (こもも視点)


 は?


 まさか、こいつが助けてくれたのはあたしの為じゃなくて、自分の生活を守るため?


「あたしもう行くから。じゃあね、バカ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「不本意だけど一応助けてやったのに礼も無しかよ。かわいくない女だな」


 これが俺と間切こももとの出会いだった。


 この出会いが俺のにしちまうなんて、この時はまだ思いもしなかった。

――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント秘話


こ「バイトなんて弱者を搾取する構造だって決まってんでしょ」


作者「言いたいことは分かるけど言い方を考えろよ」


「こももうるさい」「店長のような労基法守らない悪は裁かれるべき」「読者は結人のようなバイト戦士を応援したい!!」

――――――――――――――――――――

ここから何かを捨てなければ何かを得られない的な感じになっていきます。

ラブコメはこの先で! 何も捨てることの出来ない人には何も変えることはできないだろう。 僕がこの作品で1番伝えたいこと、そして読者に響いて欲しいことです。

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