第3話

「杖、忘れんな。あばよ」


 斯様な態度の役人には、全く無反応の儘で―男は、風呂敷包を懐に捩じ込み、杖を手にしてユラリとち上がった。

 瞬間―彼の表情かおが、初めて揺らいだ。


「…さえ…?」


 男の視界で涙ぐむのは、せんの娘…


「御帰りなさいませ……


 悠庵さま…!」


 さえと、悠庵―実に六年振りの、再会であった……。



「…旦那様は、二年程前に、御亡くなりに……


 最期迄…無実の証を立てる事が、叶わず…無念だった、と……」


「………」


「でも、こうして…

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