第33話 汚染水のさざなみ

2022年 7月 4日

 ラマがバイクで出勤したところに、遠藤が通りかかった。

 遠藤もまたエストレヤを所有している。ただし、ラマのクラシックタイプとは似ても似つかない、大改造を施されたアメリカン仕様だ。

「退職したらコレあげるから、乗ってくれない?」

「まじっすか!」

 素直に喜んでくれたことがラマの気持ちを軽くした。大学のUIカラーにペイントされた車体は、このキャンパスにあってこそ意味がある。


 オフィスで朝のメールをチェックするとポエムメールの反応が数通とどいている。

 全てが共感を表明してくれているが、ラマの心はあまり動かない。棺桶のなかで、お悔やみの言葉を聞くのは、こんな気分だろうか。


 朝のコーヒーを飲みながら、ラマは29日の朝熊の言葉が断片的に蘇るのを抑えることができない。

 朝熊は「悪者にされないように気をつけろ」と言った。親身な警告にウソはないかもしれない。しかしそれは、「俺は理事長の靴を舐めたのだから、お前も舐めろ」と言われているようにしか聞こえなかった。

 iTunes のライブラリから マイルス・デイヴィスを選んで、「朝からかよ」と自嘲する。

「気をつけろ」か。ここから先は、情報センターの小さな落ち度は、これまでの10倍になって責任を問われるのだろう。<So What?> ラマは鼻で笑ってみたけれど、マイルスは笑わない。


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