第31話 Think! Let yourself be free.

2022年 7月 1日

 「もう少し、クレイジーになってもいいのかもな」

 翌朝、酔いがさめても、その気持に変わりはなかった。


 もう何年も前から、ラマが冬にバイクに乗ることはない。

 花粉症の季節も、雨の多い季節もカワサキ・エストレヤはボディカバーに包まれたまま。オイルは下がりきっているだろう。そろそろ、乗らなければ任意保険がもったいない。

 シンプルな空冷単気筒はチョークを引けば簡単に半年間の眠りから目覚めてくれる。暖機運転もそこそこに国道を走り出し、途中から東西に伸びるニュータウンの中を走る。

 シャワーのような初夏の木漏れ日の中、アクセルを開けながら、ラマは何かが終わったことを、はっきりと感じた。


 朝熊に比べてラマの知る情報は限られている。しかし、自由な思考力と心に意力が残っている限り、沈黙することは、自分の首を締めて死ぬのと同じくらい難しい。

 メールを書いて関係者全員に送る。それをもって、このドタバタ喜劇を終わりにしよう。その軽率な行為を客観的に評価できていない自覚はあるが、猫が尾を踏まれて悲鳴を上げるようなもの。かまうことはない。 

 初夏の風の中で、開放された喜びの笑いが込み上げてくる。


 PCを立ち上げ、コーヒーをいれ、一気にメールを書き上げた。

 多分に感傷的な文面からラマはそれを「ポエムメール」と呼ぶことにした。


 

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