第4話 一番街の天使

2017年 7月16日

 「ビーチ」への階段を登り、ドアを開けると目の前は壁だった。店員に案内され、文化祭のお化け屋敷のような細く暗い通路を、壁に沿って右奥へと進むとようやく、お店と呼べる空間が現れた。数席分のカウンターが左右の壁際と中央に並んでいる、バーと呼ぶには妙なレイアウトだ。

 友人と二人、壁沿いのカウンターに席を取りビールを飲んでいると、二人の女性が現れて「座ってよいか」と聞く。


「いやあ~、すごかったな」

 衝撃を冷ますために、旧コマ劇をぐるりと回り、別のバーのテラス席でビールを流し込む。

「オレの隣の子、袖を引張って『出ましょうよ、一万円』て小声で言うんすよ」と友人が報告する。

「一万円どころか、十万円もらっても遠慮したいかも」

 法律や道徳的理由(からと言いたい所だが、それ)ばかりではない。

「あそこはマジで最低ラインのお店ですね。彼女たち、あのお店がなかったら、ホームレスですよ」

 案内人によれば、女性は無料、終夜営業のガールズバー「ビーチ」は行き場のない少女たちのシェルターでもあるという。

「まさに、『未成年の貧困を調査する』のに最適な店じゃないか」

 前川喜平の言葉が滑稽な弁明ではなく、愚直な真実であることをラマは確信した。

 読売新聞を購読することは生涯ないだろう。故郷のお祭りについて語るときの少女の眼の輝きを思い出し、苦いビールを空けた。

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